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第130話
「フェルカリアの戦況はそれほどまでに悪いのか」
場所が変わり、カイゼルの部屋で、カイゼルにイリエント、そしてブラッドリーが茶を飲み交わしつつ話をしている。
「兵士に怪我人が多いのは事実。しかし前に送った伝令のおかげで、かなり立て直しができています。先に伝令へ舵取りを買収しろと伝えていたのが正解でした。船で渡ろうにも、舵取りは既にこちらのもの。敵国が大河を渡る方法はもう橋しかありません」
「ほう。買収も上手くいったか」
「我が国は資源が豊富ですからね。このご時世、金に勝るものはありません。まあ、最悪の場合は国宝を差し出しましょう」
「……国宝に関しては王の許可が要るはずだが」
「そんな事、百も承知ですよ」
ふふふ、と笑うイリエントに、カイゼルもブラッドリーも呆れ顔である。
「皇太子殿もわざわざ我が国に足を運ばれましたが、完全なる無駄足ですな。伝令ひとつでここまで戦況は変わる。戦をされたことのない御人なのか」
ブラッドリーがやれやれと首を振る。
しかし、それに静かに返したのはカイゼルだった。
「……それだけではあるまい。ノアリスの卵が目当てだ。負傷兵をそれで癒すつもりだった」
「フェルカリアを出た時、ノアリス様はかなり疲弊していたと聞きます。……散々搾り取っておいて、まだ彼の御方を利用しようとは」
「ああ。やつの目的はそれだけだ」
ノアリスを手中に収めること。
きっとやつは一度ルイゼンの手に渡ったノアリスでも、心を開くことなく、また操り人形のように自分の元に戻ってくると考えていたに違いない。
「今のノアリスには心がある。……いや、元々持っていた。それがひどい仕打ちで凍ってしまっていたのだ。今はその氷が溶けていっている。自分自身で、思うように歩いて行ける」
「……それもこれも全て、陛下のおかげですね」
「いや、」
イリエントが穏やかに言うのを、カイゼルは苦笑して首を振った。
「俺はどこまでも武人だ。これまでも、何かあっても一人で立ち上がってきた。その先でそなた達に支えられているがな。だからその、立ち上がる時にどう支えてやればいいのかわからないままだ。今も、ずっと悩んでいる。だからこそ、これは全てノアリス自身の力だ」
ふっと笑うカイゼルに、イリエントもブラッドリーも同じように微笑んだ。
カイゼルの言葉は間違いは無いのかもしれない。しかし、それでもノアリスを救い出し、支え、守り続けているのはカイゼル自身だ。
それを知っている二人は、『まったく、この御方はどこまでもご自分を低く見積もられる』と、少しばかり失礼なことを胸の中で零していた。
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