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第132話

 カイゼルとブラッドリーが戦場に最後の伝令を送ってから暫く。  ルイゼン国には、嬉しい報せが届いていた。 「さて、ノアリスに知らせなくては」 「あら、まずは大臣たちにお知らせいただかないと」 「それはそなたに任せる」  共に居たイリエントは、ジトっとした目でカイゼルを見たあと「わかりましたよ!」と少し語気を強めて踵を返し、部屋を出ていく。  カイゼルは今にも王らしからぬスキップしそうな気持ちでノアリスの元に訪れた。 「ノアリス!」 「! カイゼル様、いかがなさいましたか」  戦が始まり、長らくを不安に染まりながら過ごしていた彼は、カイゼルを見ると表情を和らげる。 「戦が終わった」 「……えっ、」 「我々の勝利だ」  ノアリスは言葉の意味を理解できないのか、ただ見つめ合うだけのふたり。   「ぉ、わった……?」 「ああ。終わった」  もう一度カイゼルが事実を伝えれば、ノアリスは膝から崩れるようにして床に座り込み、そのまま両手で顔を覆って涙を流す。  決して、カイゼル本人が戦場に出て戦っていたわけではない。  いつもそばにいてくれたロルフに、イリエントやブラッドリー、それからコンラッドだって、この城にいた。  しかしそれでも、いつか奪われてしまうのではないかと恐怖していたのも事実。  わざわざ兄がここに出向いて卵を望むくらいであったから。 「ぅ、っ、ふ……」 「疲れただろう。ずっと気を張って、心が安らかでなかったはずだ」  傍に寄り、優しく抱きしめるカイゼルは、その震える細い肩を撫でながら低く落ち着くトーンで言葉を落としていく。 「まだ後処理がある。そのせいで少し慌ただしくなるが、もう誰も戦場には出ない。今回前線にいた我が国の兵士達も戻ってくる」 「っ、あの、わ、私、何か、お手伝い……」  泣きながら顔を上げたノアリスに、カイゼルは苦笑する。  それはそれは猫の手も借りたいほどの後処理が待っているが、傷付いた兵士たちの前にノアリスを差し出すなんてこと、するはずがない。  たくさんの血に怪我を目の当たりにすることになる。 「それは、いけない」 「な、ぜ……?」 「きっと心優しいそなたは、彼らを見て胸を痛める。それならば、彼らが元気になったその時に、共に感謝を述べに回ろう」 「……カイゼル様と、共に……?」 「ああ」  そうすれば、きっとノアリスを守れる。  その心も、一部、ノアリスをフェルカリアの間者だと疑う兵士もいるだろうが、カイゼルを前にしてそのようなことを口にはできないだろうから。 「だから大丈夫だ。俺が"良い"と言うまでは、兵士たちに近づくなよ」 「……近づくのも、いけませんか?」 「戦が終わったばかりでまだ興奮が冷めやまぬ者もいる。わかってくれ」 「……わかりました」  コテン、とカイゼルの胸にノアリスの頭が預けられる。  こうして自分から甘えてくれるようになったことを、カイゼルは心の底から喜びつつ、その丸い頭にチュッと口付けたのだった。

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