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第134話
第四章
ルーヴェンの歪み切った心には、もはや誰も気付けなかった。
平和が戻った国では、負傷者こそいるものの、ルイゼン兵の指揮のお陰で死者の数は想定よりも少なく、国全体としての傷も少なく済んだ。
兵士たちは噂をする。
皇太子は誠に形だけの総大将であった。
ルイゼンの兵士たちは、彼らだけでも頭がいい。何度も経験をしている戦であるから、彼らが仲間だと心強い。
息苦しくなり城下に出れば、皇太子はその身分で持て囃される。
子を抱いてください。きっと皇太子殿下に抱いていただけたら、幸せになるだろうから。
元より民との距離も遠くはなかったルーヴェンは、言われるがまま子を抱いてやり、ほんのり笑うその子にノアリスを重ねた。
母親に子を返し、街を歩いてからまた、城に戻る。
日々が、つまらない。
くだらない噂に左右される心も、こんなもの無ければいいのにとすら思うことがある。
しかし、こんな気持ちにさせるのは全て、王である父のせいだ。裸の王は、自身の仕事や民の声など聞くこともない。ただ平和になった世に喜ぶだけで、そこでの苦悩を知らない。
戦は終わっても、今なお、息子の心の傷は癒えていない。
戦況が悪く、恥を忍んで戦の途中にルイゼンに赴き、ノアリスの力を借りようと思ったのに、ノアリスは手を差し伸べるどころか、拒絶した。
そんな辱めも知らない。
調理場に足を運び入れると、料理人たちが和気あいあいと料理を作っていた。
ルーヴェンの姿に驚きひれ伏そうとするのを止め、「それが、王の?」と問いかける。
「その通りでございます! 本日は肉料理をご所望でしたので……」
「そうか。肉には、赤の……あの葡萄酒が合う。長らく別で食べていたが、今日は私も共に食事をしようか」
「! 左様でございますか! それでは我々もより腕を振るいましょう!」
「ああ。頼んだ」
葡萄酒。
あの、甘くて、どこか苦くて、美味しい酒。
ルーヴェンは味を思い出しながら、自室に行くと隠し扉を開け、卵と同じ場所においてある小さな紙袋を手に取った。
中には白い粉があって、この紙ごと水分に浸せば溶けて消える。
「──父上は、愛すものを間違えましたな」
ルーヴェンはケラケラと笑う。
まるで壊れたおもちゃのように、ケラケラ、カタカタ。
それがどこまでも不気味だった。
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