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第138話

 馬車に乗り、揺られながら着いた街で、ノアリスはカイゼルの手に支えられながら地面に降り立った。  周りにはたくさんの人。周囲の目が気になって俯くノアリスに、カイゼルが帽子を被せてくれる。 「俺の好きな菓子屋がある。きっとノアリスも好きなはずだ。着いてきてくれるか?」 「ぁ、も、もちろんです……!」  そうしてカイゼルが歩くのを、手を繋いで着いていく。  歩幅はノアリスに合わせて狭く、ゆっくり。  しかし彼は民からの信頼の厚い王。行く先行く先で声を掛けられている。 「陛下、この御方かい? 陛下の好い人は」 「ああ、そうだ」  腰の曲がったお婆さんに声を掛けられ、ノアリスは静かに頭を下げた。 「アンタ、私の若い頃にそっくりねぇ〜」 「何言ってんだ婆さん……」  ノアリスを見てホホホ、と笑うお婆さんに、カイゼルは呆れ顔である。 「チェシナが悲しんでたよぉ。最近は、陛下が来てくれないんだってさぁ」 「今から向かうところだ」 「そうかい、そうかい。邪魔しちゃったねぇ。好い人、どうか、陛下と幸せになるんだよぉ」  手を取られ、ノアリスは困惑しつつも微笑む。 「は、はい。ありがとうございます、おばあ様」 「あらやだ、そんな風に呼んでくれるのかい。愛おしい子だね。これをあげるからね、飴だよ。美味しいから、陛下と分けて食べなさいねぇ」  そうして握らされたのはたくさんの飴。  ノアリスはカイゼルを見たが、彼は頷き微笑むだけだ。受け取っておきなさいとの事らしい。  お婆さんと別れて、先程彼女が言っていたチェシナのお店へ。そこはカイゼルが好きな菓子屋らしい。 「チェシナ」 「! 陛下じゃないかーっ!!」  民との距離が近い彼は、チェシナと呼んでいた彼に飛びつかれても呆れ顔をするだけで、決して怒ったりしない。 「戦があったって聞いたから、きっとお忙しいんだろうとは思っていたけれど、なかなかに来ないから、俺から行ってやろうかと思ったぜ……」 「……城へか?」 「当たり前さ」 「門前払いを食らうだけだぞ」 「……確かにそうだわな」  カイゼルを見ていたチェシナが、静かにノアリスに視線を向けた。 「……まさか、アンタ……ああいや、貴方様が、陛下の……」 「ああ。俺の妻になる」 「なんてこった! 俺、こんな格好で……とんだ失礼なことを……」 「……念の為に伝えるが、お前の前にいる俺はこの国の王だ」 「そんなことは知ってらァ! 王妃様……でいいのか? どうぞどうぞ、こちらに。何も無いシけた店ですが、お休みになられてくださいな」 「ぁ……す、すみません。ありがとう、ございます」  一度店の裏に引っ込んだチェシナ。  ノアリスはドキドキしながらカイゼルの手を握っている。 「か、カイゼル様、あと……」 「ああ、どうした」  チェシナやお婆さんと話す時とは違う、またひとつ柔らかい声。 「あ、あの、妻、妻だと……」 「? ああ。ノアリスは俺の妻だ」 「っ、でも、まだ……あの、お子のこともございますから、そのような事は、言わない方が……」  世継ぎのことが気になって仕方がないのだ。何もかも上手くいくか分からない。それなのに妻だと宣言されてしまうのは、如何なものさと思って。 「構わない。どうなろうと、ノアリスは俺の妻となるから」 「……わ、私で、いいのですか……? 本当に……?」 「本当だ」 「め、妾姫様が、ご懐妊なさって、王子様がお産まれになったら……」 「それでも、ノアリスが一番だ。その妾は側室に入れる」  これは全て、決まっていること。  まるでそのような物言いに、嬉しいのか、恐れ多いのか、ノアリスはわからないままカイゼルの手をぎゅっと握った。

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