147 / 165
第147話
◇
ルイゼンの行軍は目を見張るものがあった。
一糸乱れぬ強軍はまさにどこから敵がかかってきても崩れることもない。
国境に迫る前には息を殺し、敵にバレぬよう国全体を囲うように軍が配置されていた。
総大将はもちろんカイゼル。
彼が合図を出せば、戦が始まるのだ。
カイゼルは傍らにいたイリエントを呼んだ。
すぐに返事をした宰相は、カイゼルと同じ方角を見る。
「ノアリスが、自らを諦めていないかが、不安で仕方ない」
「陛下……」
「この戦をしたとて、ノアリスが生きていなければ──」
「今それを考えるのはよしなさい。ノアリス様は生きています。ですから、助けに来たのでしょう」
背中をドンッと強く叩かれた。
眠れていなかったからか、酷く弱気になっていたのだ。
カイゼルはハッとして、イリエントを見る。
「生きていることを、これでもかというほど褒めてあげるのです。この地獄のような場所で、よく耐えたと。もう二度と、こんな場所には戻らなくていいようにするからと」
「っ、」
「わかったなら、しっかりなさい。私は陛下のお母上様ではありませんよ」
またも軽口を叩いた彼に、カイゼルは笑った。
そうだ。助けるためにここに来たのに、弱気になるだなんてらしくない。
カイゼルはスッと前を見ると、ゆっくりと件を抜いた。そしてそれを前に翳す。
「出陣」
ただ一言、そう言った。
その瞬間始まる総攻撃。色々なところで怒号と悲鳴が聞こえてくるが、何も気にならなかった。
目指すはただ一人、ノアリスのもと。
馬を走らせ、城下内を駆け巡る。
逃げ惑う民達には誰一人として目もくれず、皆が向かうは城。
一度訪れたことのあるそこは、嫌な空気がする。
敵兵が攻めてくるが、元より数も質も違う。簡単にねじ伏せられてしまう敵兵に、味方の兵士たちはやりがいを感じらないらしい。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。そのような行動を繰り返し、ようやく場内に入ると、そこでは使用人達が不慣れにもナイフや剣を持って立っていた。
「イリエント、俺はなんと言っていたか……たしか、場内にいるものは殺しても良いと言ったな?」
「ええ。生かすのは市民だけだと」
そばに居たイリエントが大きな声でそう言う。瞬間、使用人達は慌ててその服を脱ぎ、武器を捨てて肌着になると"使用人ではない"と態度で見せつける。
「ははは、面白い。こんなところに身ぐるみ剥がされた市民がいるとは」
「ふふふ、下品ですね」
皆、巻き込まれないように必死だ。
たった一人、新たなる王が勝手に始めたこと。それを支える従者は、どうやら誰一人として居ないらしい。
「詰みも、詰みだな」
「信頼なくして国は成り立ちませんから」
そうして逃げ出そうとした"元"使用人の女を、カイゼルは「待て」と一言で止めた。
「王はどこにいる。ノアリス王子は」
「っ、お、お二方、とも……お部屋に……」
「部屋……場所は」
「東の、東の、部屋に、ございます。……あ、し、しかしながら」
「?」
「その部屋には、ルーヴェン王のお姿しか、見たことがありません……っ! ですが、ノアリス王子殿下がそこに連れられたのも、見た者がおりました……!」
「……なるほど」
女の言葉に、カイゼルもイリエントも眉を寄せた。
その部屋には隠し部屋か、隠し通路がある。
同じく城で暮らしている二人だ。何かがあった時のために身を隠す部屋は、城の中にいくつかあった。
ともだちにシェアしよう!

