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第150話

 カイゼルの顔色が段々と青くなっている。  ノアリスは首元に小刀を突きつけられながら、その事実に気が付いた。  自分を助けるためにここまで来てくれま人。それなのに、今助け出された自分がまたも捕まり、彼らに危機を与えている。  卵は、こんな大きさになっても孵化しないのだ。きっと、生まれたところですぐに途絶えてしまうだろう。そもそも兄と自分からできた卵は異形だとしか思えない。愛さないそれを守ることはできない。  では、自分は?  守られてばかりの自分自身が、どうやってあの強い彼の隣に立てるというのか。  ノアリスはこんな状況であるからこそ、むしろ冷静になってカイゼルを見た。  目が合った瞬間、初めて出会った時のように心がときめいた。  あの時も、今も、助けてもらった。  今度こそは、自分の手で。  ノアリスはギュッと手を握ると、小刀を持つルーヴェンの腕に思い切り噛み付いた。 「い゛──ッッ!」  そうして、彼が大切そうに抱えていた卵を、ドンッと、押してその手から溢れさせる。  床に落ちたそれは、衝撃でパリンと割れる。  兵士は再びルーヴェンを捕らえると今度は逃げられないようにキツく拘束した。  しかしルーヴェンの視線は、割れた卵にしか向いていない。 「た、たまご、たまごが……」 「……」  ノアリスはそれを見れなかった。  そこには人にもなれず、他の生き物にもなれていない異形の生物があって、少し動いたかと思うと、ものの数秒でその動きを止めたのだ。  イリエントはジッとそれを見ていた。  空気に触れてから、終わるまで、ずっと。 「っ、の、ノアリス」 「! カイゼル様!」  カイゼルは息も絶え絶えにノアリスを呼んだ。  傍に駆けてきた彼は、カイゼルに触れるとイリエントを振り返る。 「イリエント、は、早く、早くカイゼル様を、どうか……!」 「ええ。運びます。少し力をお借りしても?」 「っ、はい!」  ノアリスはカイゼルの腕を肩に回し、イリエントと共にゆっくりと立ち上がった。  そして──そういえば、と忘れたかった過去を思い出す。 「イリエント、私、覚えが、あります」 「はい?」 「少し、待っててください。薬があるんです」 「薬……ぁ、いけません、ノアリス様!」  カイゼルの意識がゆっくりと遠のいている。ノアリスを引き留める力が今は無い。  代わりに兵士が彼を追いかけるが、最後までその背中を見ていることはできなかった。 「陛下、陛下! しっかりなさい!」 「っ、は……は……」 「肺が損傷しているようですね……いや、肺まで届いているか?」 「っ、いきは、できる」 「分かってますよ。少し黙らっしゃい」  ひどい宰相である。

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