150 / 165
第150話
カイゼルの顔色が段々と青くなっている。
ノアリスは首元に小刀を突きつけられながら、その事実に気が付いた。
自分を助けるためにここまで来てくれま人。それなのに、今助け出された自分がまたも捕まり、彼らに危機を与えている。
卵は、こんな大きさになっても孵化しないのだ。きっと、生まれたところですぐに途絶えてしまうだろう。そもそも兄と自分からできた卵は異形だとしか思えない。愛さないそれを守ることはできない。
では、自分は?
守られてばかりの自分自身が、どうやってあの強い彼の隣に立てるというのか。
ノアリスはこんな状況であるからこそ、むしろ冷静になってカイゼルを見た。
目が合った瞬間、初めて出会った時のように心がときめいた。
あの時も、今も、助けてもらった。
今度こそは、自分の手で。
ノアリスはギュッと手を握ると、小刀を持つルーヴェンの腕に思い切り噛み付いた。
「い゛──ッッ!」
そうして、彼が大切そうに抱えていた卵を、ドンッと、押してその手から溢れさせる。
床に落ちたそれは、衝撃でパリンと割れる。
兵士は再びルーヴェンを捕らえると今度は逃げられないようにキツく拘束した。
しかしルーヴェンの視線は、割れた卵にしか向いていない。
「た、たまご、たまごが……」
「……」
ノアリスはそれを見れなかった。
そこには人にもなれず、他の生き物にもなれていない異形の生物があって、少し動いたかと思うと、ものの数秒でその動きを止めたのだ。
イリエントはジッとそれを見ていた。
空気に触れてから、終わるまで、ずっと。
「っ、の、ノアリス」
「! カイゼル様!」
カイゼルは息も絶え絶えにノアリスを呼んだ。
傍に駆けてきた彼は、カイゼルに触れるとイリエントを振り返る。
「イリエント、は、早く、早くカイゼル様を、どうか……!」
「ええ。運びます。少し力をお借りしても?」
「っ、はい!」
ノアリスはカイゼルの腕を肩に回し、イリエントと共にゆっくりと立ち上がった。
そして──そういえば、と忘れたかった過去を思い出す。
「イリエント、私、覚えが、あります」
「はい?」
「少し、待っててください。薬があるんです」
「薬……ぁ、いけません、ノアリス様!」
カイゼルの意識がゆっくりと遠のいている。ノアリスを引き留める力が今は無い。
代わりに兵士が彼を追いかけるが、最後までその背中を見ていることはできなかった。
「陛下、陛下! しっかりなさい!」
「っ、は……は……」
「肺が損傷しているようですね……いや、肺まで届いているか?」
「っ、いきは、できる」
「分かってますよ。少し黙らっしゃい」
ひどい宰相である。
ともだちにシェアしよう!

