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第153話

 共に食事をして、湯浴みを終えたふたり。  穏やかな時間を過ごし、最後には一緒のベッドに眠る。  カイゼルは愛しいノアリスの金色の髪を撫でながら、いざ、考えていたことを話すことにした。 「ノアリス」 「ん……はい、なんでしょう……?」  柔らかいテノールの声に、ノアリスが僅かに顔をあげた。   「俺は今回、ノアリスを早く奪還するために、様々なところでそなたを俺の"妻"だと言って回ったのだが……」 「!」 「正式に、妻となってくれないか」  まさか、こんな微睡みのなかで大切な話をされると思っていなかった。  ノアリスは少し困惑したあと、下唇の内側を噛んでカイゼルの手を掴む。 「し、しかし、お子は……?」 「それは……妾に頼む予定だ。ノアリスは正室で、王妃に。妾は側室に。生まれた子は王子でも、王女でも、大切にして、暮らしたい」  そう言われ、子供もいない自分が王妃になど、きっと反感しか買わないのではないかと、不安になる。  きっとイリエントなら『そんな、筋の通ってないことをなさいますな』と怒りそうだ。 「それは……いけません。子供もできない私を、子供を産んだ方をさしを置いて王妃になど」 「……」 「……お許しを。私には、荷が重い」  真っ当な意見だ。ノアリスはそっとカイゼルの手を離して目を伏せた。   「──卵」 「えっ……」 「ルーヴェン王が大事に保管していたらしい、あの 卵には、異形の……人間にもなり損ねた生き物がいたらしい」 「っ、」 「それは空気に触れ、僅かな時間生きていた。これをイリエントが確認している」  再び顔を上げたノアリスの目に映ったのは、カイゼルのエメラルドグリーンの、真剣な瞳だ。 「俺はこれを、濃い血が混ざってしまったからだと、思っている」 「……なに、を」 「兄と、弟という近しい者同士でのものであったから、人になり損ねたと」 「ぅ……」 「……。まあ、だからといって、そなたにまたあの苦痛を味わせるようなこと、しないさ。ただ、妾とのことは理解してくれ。……今後はこうして夜も傍に居られなくなる。寂しい思いをさせるかもしれないが、ロルフはいるから、安心しなさい」  全てが終わったはずなのに、心は落ち着かなかった。  カイゼルが、傍から離れてしまう。この心優しく気高い包み込んでくれるような彼が、今後は妾姫のところに行って、帰ってきてくれなくなるのだ。  広いベッドは一人で眠るには寂しい。  ロルフがいると言っても、安らぎをくれる体温や香りは傍にいない。 「っ、」 「ノアリス……。まだ傷の深いそなたに、こんな選択を迫ってすまなかった。大丈夫だ、何も気にせず、ゆっくり眠ってくれ」  抱きしめられ、背中を撫でられる。  この手を、この体温を、他の人に渡さなくてはならなくなる。  全てを諦めていた自分から、まだこんなにも独占欲のような我が儘が溢れ出てくるなどとは、思いもしなかった。

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