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第154話
翌朝、カイゼルは既に起きて支度を調え、部屋を出て行ったらしい。
戦の後だ、忙しいのはわかる。しかしノアリスは昨夜の話を聞いてから、眠りも浅く不安と寂しさが胸を渦巻いていた。
誰にも支度を手伝ってもらうことなく、起きたままの格好で部屋を出ると、兵士達にかけられる声から逃げるようにして庭に出る。
傍らにはロルフがいて、心配そうにノアリスの手をパクリと咥え、部屋に連れ戻そうとしてきたが、少しでも青空の下で心を晴れやかにしたかった。
あの卵は、濃い血が交わったからこそ、あんな結末を迎えてしまった。
例えば、自分の血と、カイゼル様の血であるのなら──?
検証もできない想像することしか叶わないそれ。胸の奥に渦巻くのは、妾姫に対する嫉妬か、踏み出せずにいる自分の愚かさか。
構わず庭に寝転んだノアリス。
夏の刺すような陽射しから、秋の柔らかなものに変わり、風もそよそよと吹いて気持ちがいい。
「──ノアリス様」
「キャッ!」
目を閉じて考えながら自然を感じていると、テノールの低い声に名前を呼ばれ、思わず悲鳴を上げた。
「ああ、驚かせてしまった。すみませんな」
「っ、ぶ、ブラッドリー……」
「そのようなお姿でどうなされた。まさか、陛下と喧嘩でも? いや、陛下がノアリス様に怒ることなどあるわけが無い。まさか陛下に嫌なことをされましたか。私が叱っておきましょう」
「……ふふっ」
騎士はそう言って片膝を突き、ノアリスに手を差し出した。
その手に支えられ体を起こす。
「どうして、ここがわかりましたか……?」
「ロルフが花畑の中、尻尾を振っていたのなら、そこにノアリス様がいるとわかります」
心配だから、離れない。ロルフの綺麗な瞳からはそんな声が聞こえてきそうだ。
「いかがされましたか。私に話せることであれば、なんでも申し付けください。必要あれば、誰でも殴りに行ってまいりますぞ」
「ぁ、そ、そのようなことは……」
「? そうですか」
ブラッドリーは人より血の気が多いのかもしれない。今更それを理解したノアリスは、柔らかく微笑むと、ブラッドリーの方に顔を寄せた。
「カイゼル様は、妾姫様を娶るそうです」
「はっ──!?」
「しかし私は、王妃として、即位させると。子供もいない私が、子供を産んでくださる妾姫様を差し置いてそのようなこと、できるはずがありません」
「……」
思っていたよりもずっと重たく難しい話だった。
ブラッドリーは頭は切れるがそれは戦に関する事ばかりであって、女性関係では上手く立ち回れない不器用な男だ。
「……ブラッドリーは、卵を、見ましたか」
「卵……。私が見たのは、後処理の時です。人ではない者が、あの日、あの部屋で息絶えていたのを、イリエントと共に確認しています。殻が割れてから少しの間は動いていたとか」
ブラッドリーの言葉に、ノアリスは頷く。
「……カイゼル様曰く、それは濃い血が混ざったからだと」
「……濃い、血?」
「あれは……私と、兄のルーヴェンが……交合ってできた、可哀想な、卵です」
「!」
そうして真実を知ったブラッドリーの目は、驚愕の色に染まっていた。
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