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第155話

「それ、は……」 「ええ、不気味でしょう。私はこれまで何度も卵を……兄によって孕まされ、産んできました。あの卵だけは、命を宿していたそうです」 「……」  ぐらり、傾いたからだをブラッドリーに支えられる。 「しかし、カイゼル様となら……?」 「え……?」 「カイゼル様となら、濃い血には、なりません。もしも本当にカイゼル様が私を王妃に即位させるというのなら、私が納得できる方法は、これしかありません」  済んだ青い瞳がブラッドリーを見つめる。 「ブラッドリー、私のこの行いは……この思いは、正しいのでしょうか」 「……」  ブラッドリーは何も言えない。  ノアリスの重たすぎる過去。先日見たばかりの異形の生き物。国の存亡を掛けた世継ぎ。  戦以外のことには皆無なブラッドリーは、今にも爆発しそうなほど、頭の中でぐるぐると事が巡っている。 「〜っ、そ、それは……陛下本人に、その思いを伝えるべきです!」 「ぇ……」  ノアリスは戸惑ったように微笑む。 「カイゼル様は、お優しい方です。そんなことをしなくてもいいと、きっと仰るはず」 「し、かし、しかし! ノアリス様がそれを望むのであれば、あの御方はその望みを必ずや叶えます。もしもこの言葉に嘘があれば、俺は腹を切りましょう」 「っ! なんてこと、そんな、そんなことはしないで……!」  ノアリスは慌ててブラッドリーが腰に携える剣を手で押さえるようにした。  その結果、ブラッドリーに飛びつくような形になって── 「──ノアリス!」 「ひっ!」 「ぁ、まずい」  聞こえてきた怒号にも似た声。  ノアリスは僅かに悲鳴をあげると、余計にブラッドリーにしがみつき、ブラッドリーは空を見上げた。  今日が命日やもせん、と思いながら。  やってきたカイゼルは無理矢理ノアリスをブラッドリーから離すと、同じ目線の高さになるように膝を折る。 「ブラッドリーと何をしている。っ、そもそも、そのようにくっつくな!」 「っ、す、すみません……ごめんなさい、将軍に対して、不敬を……」 「っ! 違う! そうではない!」  ノアリスは焦って地面に平伏す。今度はカイゼルが焦る番だった。 「と、とにかく、ノアリス、怒っていない。怒っていないから、頭を上げて」 「──怒っていたではありませんか」  不意に飛んできたイリエントの声。  ノアリスはゆっくりと頭をあげる。 「! なぜ俺の側近共は、俺に危機的状況を与えたがるんだ……!」 「事実を言ったまででございますが」 「くそっ」 「ぁ……」 「ち、違うノアリス。今の"くそ"はイリエントとブラッドリーに向けたものであって」 「シクシク。糞だなんて。悲しいですね、ブラッドリー」 「全くだ」  王であるのに、宰相と将軍にからかわれ振り回されている。  そんな彼らが面白くて、ノアリスはクスクスと笑う。  こうして、何ひとつの壁もなく笑い合える未来がほしいのだ。  遠慮せず、カイゼルの隣で笑っていたいから。 「ブラッドリー」 「はい、ノアリス様」  ノアリスは、話を聞いてくれた彼に柔らかく微笑んだ。  それはブラッドリーが今まで見たどの笑顔よりも美しい。 「話します。ありがとう」 「! いえ、どうか、そのお心のままをお伝えください」  ふたりの会話を、カイゼルとイリエントは訝しげな顔をして聞いている。  しかし、何かを問いただすことはなかった。ノアリスの表情が、晴れやかであったから。

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