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第162話

 ナディエルはあの卵から生まれた子だった。  一年をかけて大きく成長した卵がある日、パリパリと音をたてて破れ、そして生まれたのだ。  生まれた時から金色の髪にエメラルドグリーンの瞳を持っており、まさに天使のような子であった。  第一王子を、この国の世継ぎを産んだノアリスの功績は見事に認められ、誰からの反対もなく、王妃に即位した。  それでも王子に何かがあればと心配するものたちの声があり、妾姫を側室を、と声が上がったが、カイゼルは全てを無視し「我が子は自身の手で、必ずや守ってみせる」と宣言したことで、それからの進言は上がってきていない。   「ノアリス」 「はい」  日の落ちた庭には、安らかな春の香りが漂っていた。  庭にある小さなフォリーに夜の散歩でやって来たカイゼルとノアリス。  静かなそこには優しい花の香りが広がっている。  腰掛けたカイゼルは、ノアリスの体が冷えないよう、自身の膝に彼を座らせると、そっと抱きしめる。  首筋に唇で触れて、そっと手を繋ぐ。  擽ったそうに肩を揺らすその仕草でさえ、全てが愛おしい。 「実の所、前フェルカリアの領土で、ノアリスを王に据えたいという声があがっていた」 「え──?」 「ルーヴェン王が酷い王だと、以前ルイゼンにやって来た使者が噂を広めたのだ」  振り返ったノアリスに、カイゼルは優しくキスを落とす。 「しかし、フェルカリアは最早ルイゼンと領土、その国の王妃をノアリスが務めているわけであるから、同じこと」 「ぁ……」 「それに、国はもう無い。今や皆がルイゼン国の民だ。……しかし、フェルカリアの民だったもの達にはやはりまだ不満も残っているだろう」  そっとお腹に回された手に力が込められる。 「その者たちの言葉を、ノアリス、そなたが聞いてやってはくれないか」 「ぁ、え、え……?」 「もちろん、一人ではない。俺も傍にいるし、問題事があるなら共に考える」  その提案を、ノアリスはすぐに受け入れられずにいる。なぜなら、フェルカリアでの暮らしを、ほとんどと言っていいほど知らないからだ。  ずっと塔に閉じ込められていた。外に出てからはルイゼンで暮らしている。本当の意味で、フェルカリアの民たちの心を理解してあげることはできないと思って。 「私に、務まるでしょうか……。私は、フェルカリアの暮らしも、何も、知らないのです」 「俺もだ。何も知らない。だから、共に彼らの声に耳を傾け、道を示してやりたい。そこにノアリスがいれば、彼らも安心できるだろう。きっと、あのルーヴェン王とは違うと、わかるだろうから」  ギュッと抱きしめられ、首筋に何度も触れる唇。  ノアリスはくふくふ笑うと、振り返って自ら彼の唇に口付けをした。 「わかりました。貴方様となら、やってみます」  フッとカイゼルの目が柔らかく細められる。    柔らかい月明かりが、どこまでも二人を照らしていたのだった。  【囚われ王子は、焔の王に寵愛される】 完

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