38 / 47
38.心の腑(はらわた) ※
後ろ手に鍵を掛けた途端、肩を押された。
とん、と背中が扉に当たる。ダンテを玄関の扉に押し付けた張本人――クロードがにんまりと笑っている。
どうしたの、と聞く前に唇を塞がれた。
やっぱり、と思う。聞かれたくないことがあるのだろう。こんな風にクロードが迫ってくることは、珍しい。いつだってダンテばかりがクロードを欲しがっているし、それを笑って許してくれることの方が多いのに。
帰りの車内で話したことが、原因だろう。
それよりお前の用は終わったのか、と聞いてきたクロードに、その相手があのアンリ・リヴィエールだった、と告げれば、ふーん、と言ったっきり窓の外を眺めていた。
心ここにあらず。
そんな様相のクロードの目に映るのが、憧憬と慕情だったなら、今頃嫉妬に狂っていた。だが彼の瞳に籠っていたのは、筆舌に尽くしがたい感情に見えた。分類するとしたなら哀だろうか。
それを聞こうと思っていたのに。
聞かれることを察していたのか、先手を打たれた。
それはそうとして、クロードから求められるのは悪い気はしない。勿論、有耶無耶にさせるつもりは微塵もないけれど。今だけはこの、いとおしい、なんて綺麗な言葉では収まらないほどに、心を掴んで放さないクロードを堪能したい。今朝からずっと燻り続けていた底が見えない欲を、全部ぶつけたい。
首筋に両手を添えて、更に深い口付けを贈る。
「ンッ、はっ、ッぁ」
息を乱すクロードの舌に絡ませて、吸って、潜り込ませた舌先で裏筋を撫で上げる。ビクッと肩を揺らすクロードに、漏れた柔らかな笑い。
もっと気持ち良くなってほしくて、両手で彼の耳を塞いだ。ぐちゅ、ぐちゅ、とわざと音を立てるように舌を動かす。
音が響く度、震える腰。
とろりと蕩けていく瞳。
欲に染まった瞳が己だけを映している。
その事実に、優越感と支配欲で胸が満ちていく。なのにすぐさま渇いて、もっと、と先が欲しくなる。どろどろに溶けたチョコレートのように、甘ったるい欲と愛で溺れさせたくなる。
かくん、とクロードが膝を折ったのが分かって、床に崩れ落ちる前に片腕で支える。はぁっ、と熱のこもった息を吐いている彼に、下半身に猛る熱。主張し始めた股間。目の前の彼が気付かないわけがない。
ふ、と笑ったクロードが彼自身の意思で、ぺたりと床に座り込んだ。ふやけた笑みのまま、ベルトに手を掛けてくる。
「クロード、」
「ちゃんとオシゴトしたお前に、ごほーび、やるよ」
やんわりと制止しようと伸ばした手は正直で、動きを止めてしまった。簡単に外されてしまったベルト。流れるようにスラックスのチャックを下ろされる。見ていることしかできなかった。一つも見逃さないように、瞬きすら忘れて。
露わになった膨らんだ下着に、小さく笑ったクロードが顔を寄せてくる。視線だけはダンテに向けたまま、くつくつと喉で笑われた。
はっ、と期待の息が漏れる。一体クロードは何をしてくれるんだろう。無論、ナニであることは知っている。でも、初めてだった。クロードの意思でソレをしてくれるのは。
お前のはデカいからムリ、と契約関係だった時は言っていた。恋人になった後も、跨ってくれることはあっても、口淫はなかったのに。
ダンテの喉が上下したのを見届けてから、クロードは陰茎に布越しのキスをくれる。わざとらしく音を立てて、何度も。腰がさらに重くなる。直接的な刺激はないのに、勝手に呼吸が乱れていく。
我ながらチョロすぎるな、とは思う。だが、この世の何よりも好きな人に、こんなエロいことをされているのだ。勃たない奴がいるなら教えてほしいくらいだった。
肉欲に侵されていく頭の中で、一部だけはひどく冷静だ。
口淫で話を逸らすほど、聞かれたくないことなのか。はたまた、別の理由があるのか。今のダンテには判断が出来ない。クロードの胸の内を無理に暴くつもりはない。無理に暴いて、更に強固に閉ざされるのが嫌だから。
でも、教えてほしいとも思う。
何がそんなにアンタを駆り立てるの。どうして、そんなに心乱されてるの。アンタをこんな風にするなら、やっぱりアイツは殺す方がいいのかな。
そう聞いてしまいたい。でも、今じゃない。今するべきことは、少しでも安心させてやることだ。
そっと頭を撫でる。僅かに丸くなった瞳が揺れる。しかしすぐに元通りに歪んで、下着とスラックスにその指がかけられた。
「早くこっちにしてくれってか。ふふ、いいよ。ごほーびだもんな」
「そういうつもりは、……ッ」
ないよ、と言う前に、勢いよく摺り下ろされた。自分でも凶悪だと思う大きさの陰茎が、まろび出る。息を殺したのに目敏く気付いたクロードは、意地悪く笑う。
「ははっ、あいかわらずでっけぇなぁ」
「っ、息吹きかけないで」
「なんで? 良さそうなのに」
「イイからダメなんだよすぐにでも出そうだから」
早口で捲し立てたら、クロードにまた喉で笑われた。
うっとりとした顔を近付けた彼の舌が、既に濡れた先端をちろりと舐めてくる。意地で吐精を制御したのに、あろうことが、クロードはそのまま舌で裏筋を辿ってきた。挙句の果てに、わざとらしい音を立てて吸われる。
熱情の籠った息が口から抜けていく。それに気分を良くしたらしい。ぱくりとクロードの口に咥えられてしまった。
「っ、ぁ、クロード」
脳髄が痺れるほどヨかった。舌も咥内も熱くて、まるで吸いついてくると錯覚するほどに、上手い。
知っている。その身一つで情報を取る時に、体を使っていたからこそ行為が得意な事も、手段としてよく使っていた事も、ヨガらせるくらいの手腕がある事も、よく知っている。
クロードを抱いた全員をブチ殺してやりたいと思うくらい、そいつらを虜にしていた事も。ソウイウ目で見てる輩が多い事も。全部。
視線を合わせれば、クロードの瞳がゆるりと笑んだ。
「ふっ、ン、……イッていーよ」
「~~ッ!」
一気に奥まで咥え込まれて、喉に締め付けられた。
駆け巡った快感。耐えきれず勢いよく精を放つ。他でもないクロードに与えられる刺激に、耐えられるわけがなかった。それだけでも十分すぎるほどなのに、クロードはといえば、吐き出した精液を喉を鳴らして飲み込んでしまった。
労うように頭を撫でてから、腰をかがめる。飲み込めなかったらしい白濁が、口の端から漏れているのが見えた。また腰が重くなる。我ながら耐え性がないな、と呆れつつ、その唇に触れるだけのキスをする。
はふ、と嬉しそうに息を漏らしたクロードに微笑んで、やさしく肩を撫でた。そのまま背中を滑らせた指先。とん、と仙骨のあたりを指の腹で叩きながら、耳元で囁く。
「ベッドに行こう、クロード。早くアンタのココに入りたい」
くすぐったそうに肩を揺らしたクロードが、こくんと頷いてくれた。かわいい。その気持ちを隠さずに、耳にキスを贈った。
適当に下着とスラックスを引き上げて腰に引っ掛ける。それから、クロードに向かって手を差し出した。
素直に乗った手。そんな中で、無理に聞こうとしないことに、ほっと息を吐いたクロードを見逃すはずがない。
簡単に口を割らせられるとは思ってない。
だが幸いにも、クロードは快楽に強いとは言えなかった。とびきりやさしく、何度も気持ちよくさせると、いつもは聞けない胸の内に隠した本音を言ってくれる事があるのを知っている。
本人が自覚しなくても、ダンテは聞き逃したりしない。もちろんクロードに言った事も、揶揄った事もない。自分だけが聞ける、クロード自身も認知しているかどうか怪しい本音。
聞くたびに、自分だけなのだ、と優越感と自負に浸れた。それが今になってまさか功を奏すとは思っていなかったけれど。
溢れた笑みを隠さずに、クロードの頬にキスをしてから、足を動かし始める。
何度も絶頂に連れて行って、どさくさに紛れて聞けばいい。泣いてもすぐに抱き締めてあげられるように。どこにも逃してやるつもりなんて、最初からないから。
そんな凶暴なほどの制御し難い感情を胸に秘めて、ダンテはことさら優しくクロードの手を引いた。
ともだちにシェアしよう!

