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特異更生施設②
アリマからレモンティーを受け取り、一口すする。レモンの甘酸っぱい香りが鼻に抜け、少し渋めの紅茶の味と酸味が、口いっぱいに広がった。心が少し軽くなる。
「夕陽、渡されたタグは特Sだよね?」
「うん。特Sってなに?」
夕陽は、首から下げていたドッグタグを確認し、アリマにも見せた。
「階級みたいなもので、特Sにはそれなりの権限が与えられているんだ。そのタグ自体、普通は従事者のご子息とか、お偉いさんの推薦で入った人しかもらえないんだけど、私がチョチョイと細工した」
アリマは小さくピースサインをして、舌をペロッと出す。
「さっきのガイダンスでは、どんな説明を受けたの?」
夕陽は、つい先程の事なのに何だかずいぶん前に感じる、白衣の女性がナレーションをする説明VTRの内容をかいつまんで伝えた。
「ふーん。他のタグ付きの階級とスタートは一緒かぁ。後は現場の裁量に任せるって事なのかな。それとも……」
夕陽は、考え込むアリマをじっと見る。彼はいつも正しい答えを教えてくれる。だから、安心して待っていられる。
「……念のため、ガイダンス以外の情報は、知らないフリをしてね。私との関係も内緒にしておこう」
「うん、わかった」
「それで、今から夕陽がお世話する子に会ってもらおうと思うんだけど」
VTRでの説明によると、優れたメンタルケア技術を持つ専門家が、患者の治療をするということだった。以前アリマから聞いた話によると、実際は『ゴッドブレス』と呼ばれる特殊な能力を持った人間が、それを使って犯罪者の負の感情を取り除くのだそうだ。そんな、なんともスピリチュアルでオカルティズムな話など、アリマの口からでなければ絶対に信じない。「自分の目で見るまでは訳がわからないと思うけどね」と付け加えられ、夕陽は確かにそうだなと思った。
「彼らはナンバリングされていて……今から会う子はナンバー5。それで、さっき言ってた問題なんだけど、私が夕陽に紹介したかったのは、別のゴッドブレスだったんだ」
「その……ゴッドブレス、だっけ。人が違っても能力は一緒なんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね。扱いやすさが違うっていうか……」
アリマが不安そうに、申し訳なさそうに、夕陽を見つめる。その表情から察するに、ナンバー5はかなりクセの強い人物らしい。
それでも夕陽は怯まなかった。自身の目的を達成するためには、ここで働く事が一番の近道だと確信しているからだ。
「あーちゃん、俺、多分大丈夫だよ。今の生活もさ、なかなか……ハードなんだ。根性はついたと思うんだよね」
夕陽は、昔の俺とは一味違うよ、とおどけて見せた。
「そっか……しばらく見ない間に、たくましくなったね。うん、うまくいけばナンバー5を使った方が、夕陽が望む結果に近づくかもしれない」
それから夕陽は、アリマに測定や問診などのメディカルチェックを受けた。痩せ気味だということ以外はいたって健康で、アリマに褒められる。週に1度は、このようなメディカルチェックを受けなくてはならないと聞き、正直面倒に思った。その不満をアリマに瞬時に見破られる。
専属ケアテイカーの仕事は神経を使うため、体調を崩す人が多いらしい。特に夕陽が今から対峙するナンバー5は、何人ものケアテイカーに暇を与えている。
「慣れるまでは大変だと思うから、ここへは毎日来ても大丈夫だからね!」
「ありがとう、あーちゃん」
心配しすぎてはらはらしてるアリマを見て、夕陽は泣きそうになる。久しぶりに、本物の優しさに触れた気がした。
「じゃあ、行ってきます」
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