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ナンバー4③
服を着て、フォースの部屋のベッドに腰掛けて彼を待つ。先ほど、夕陽が脱衣所でフォースの髪を乾かしてやると、とても喜んでいた。今、そのお礼にと飲み物を用意してくれている。
待ち時間で、夕陽は先程風呂場で浮上したある問題と対峙していた。流れ的に、今からフォースとセックスをする。風呂で話して、まだ十分に彼の人となりを理解したとは言い難いが、どう考えても、フォースが下だ。
「俺、挿れる方やったことないんだけど……」
心の声が漏れた直後、フォースがグラスを持ってやってきた。
「お待たせー。ジャーン、アイスレモネードだよぉ!」
縁に輪切りのレモンを添えて、見た目にもおいしそうなレモネードを渡される。
「おいしそう」
「でしょう!僕が作ったんだよ!えへん!」
フォースが腰に手を当てて胸を張る。「かわいい」と、また心の声が漏れそうになるのをぐっとこらえて、夕陽はレモネードを受け取った。
「いただきます」
フォースが作ったレモネードは、レモンの酸味とはちみつの甘みが丁度良いバランスで、驚くほどおいしかった。風呂で火照った体に丁度良くて、一気に飲み干した。
「おー、良い飲みっぷり」
「……おいしい!」
「よかったぁ……どーん」
「うわっ」
フォースが夕陽に抱きついて、そのままベッドへ押し倒す。夕陽は、手のグラスを落とさないように注意しながらも「これは……どっちだ?」と悩んでいた。どちらにしても、準備は必要だ。フォースを自分から丁寧に離し、サイドテーブルにグラスを置いた。
「あ、あの、僕、準備してきます」
「え?なんの?」
フォースが夕陽の顔を見上げ、きょとん、とする。
「何って、今から……エッチ、するんですよね?」
「ええ!し、しないよ?」
「ええ!し、しないの!?」
夕陽は、予想外の展開にベッドから飛び起きた。フォースの顔が一瞬で桃色に染まり、つられて夕陽もみるみる赤くなっていく。
「だ、だって、治療に行く前のケアテイカ―の仕事は主に、その、性……」
「あ!あー、そうだったね。確かに、それが一番効果があるって言ってたな。でも、個人差があるから」
夕陽は手を引かれ、再びベッドに戻された。フォースの腕が、腰に回る。
「僕はエッチな事よりも、お話して、ぎゅーってして、なでなでーってしてくれたらとても安定する」
「え……それだけで、いいんですか?」
「うん。僕はね。さ、時間がないから早く」
半信半疑で、フォースの背中に手を回す。小さくて華奢な身体は、夕陽の腕にすっぽりと収まった。それから、頭を撫でてやる。くせっ毛がふわふわしていてさわり心地がいい。
「これで、本当にいいんですか?」
「あ~、すっごくリラックス~」
フォースが幸せそうな顔をする。本当にリラックスできているみたいだ。これなら、いつでもしてあげられる。
「……前はね、お世話してくれてた子とうまくいかなくて。それがストレスになってたみたい」
「そうなんですね。あの……僕は、どうですか?」
「最高だよっ」
自分が役に立っているようで「よかった」と、夕陽は安心した。
「ねぇ、夕陽普段は自分の事、俺って言ってるんじゃない?」
「あ、はい。そうです、けど」
「やっぱり!なんか遠慮してる感じがしたんだよね。俺って言って。その方が似合ってるよ?」
フォースは、よく人の事を見ている。非言語的コミュニケーションの受け取り方が上手いのだ。夕陽は、自分も得意な方だと思っていたが、フォースのそれはその比ではないと思った。こういう力も、ゴッドブレスの条件なのだろうか。いや、もう一人の方には当てはまらない気がする。
「ありがとうございます。フォースさんも、俺に遠慮しないでくださいね」
お互い見つめ合って、くすくすと笑う。夕陽は、この様子をゴウに見せつけたくなった。彼は、どんな顔をするのだろう。
「おーい、イチャイチャ中に悪いが、時間だ」
いつの間にか、部屋の中に鹿野が立っていた。
「し、鹿野さん!?」
「え?そんな驚く?俺、何回もノックしたけど」
「すいません、全然聞こえてなくて……」
夕陽は、違和感に気付く。緊張、なのだろうか。鹿野がフォースを意識している。
「フォース……久しぶ……」
「ご苦労様、看守さん。もう行こうと思ってたところだよっ」
「あ、俺も行きます」
フォースが玄関へ向かい、夕陽もそれを追いかけた。その一瞬、鹿野が寂しそうに笑ったように見えた。
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