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神の力
治療の手順は、ゴウと同じだった。手錠をつけたフォースを鹿野が、患者が待つ鉄格子の部屋へ連れて行く。夕陽が罪状を読み上げてから、フォースが患者に近づく。患者はもれなく悪態をついて、フォースに向かって唾を吐いた。それに動じる様子もなく、フォースが患者へ手をかざす。
「ああ、私はなんてことを……ごめんなさい……」
患者が、涙を流して懺悔する。去り際には、フォースに向かい「神様、ありがとう」と手を合わせた。フォースが、その去っていく背中に微笑みかけ、「がんばってね」と手を振った。その光景に圧倒され、少し混乱している夕陽に、鹿野が声をかける。
「これが、フォースのゴッドブレス」
「すごい……」
夕陽に見つめられ、フォースが少し照れながら答えた。
「ゴッドブレスが与えるのは、罰じゃない。チャンスなんだ。でも、神様は言い過ぎだよね~。僕達に人を裁く権利はない」
それを証明するかのように、フォースは自分の手を自ら拘束した。
「あ、夕陽、医務室に行って、薬もらってきてくれない?僕、一応病み上がりだから、まだ飲み続けないといけないのがあるんだ~」
その薬は、思い出すだけで苦いのだろう、フォースが眉をひそめた。
「わかりました、鹿野さん、フォースさんをお願いします」
「はいよー」
久しぶりにアリマに会える、と、気が急いていた夕陽は、なんの疑問も抱かずに行ってしまった。
「……歩ける?」
「ちょっと、無理かなぁ。久々だったから」
鹿野がフォースを背中に担ぐ。立っているのも辛かったのだろう、身体が震えていた。
「夕陽が知ったら、自分が悪いって思っちゃうから……ご迷惑をおかけします、えっと、鹿野さん?」
「……いいよ。疲れたろ?寝てな」
フォースの重さを背中で感じながら、鹿野は一歩ずつ、前へ進んだ。
「フォースが特別なんだよ。カリスマ性って言うのかな」
夕陽はアリマに、さっき見たばかりのフォースのゴッドブレスについて話す。アリマは、そのフォースの為の薬を用意しながら、久しぶりの夕陽との会話を楽しんでいた。
「本当に、罪を認めて改心したって感じだったよ」
「確かに、彼が治療した患者は、比較的全うに生活できているみたいだよ。でも……」
アリマが錠剤を一日分ひとまとめに袋に入れていく。夕陽は、その薬に見覚えがあった。
「メンタルへの負担も大きくてね。不調の時との差が激しいんだ。だから、ゴウより扱いやすいと思ったんだけど」
アリマが最初に夕陽を専属ケアテイカーとしてつけたかったのは、このナンバー4だったらしい。アリマの考えでは、ここまで早く上層部がナンバー4に治療を再開させる事は、想定外だったようだ。
「全然、そうは見えなかったけど……まぁ、俺の望みがかなうなら、どっちでもいい」
「そうだね。だったらやっぱり、いまのところはゴウかな?はい、これ。とりあえず1週間分。飲みすぎるとよくないやつだから、夕陽が管理してあげて」
夕陽はアリマから「おくすり」と書かれた紙袋を受け取る。どうしてひらがなで書かれているのか、昔から不思議だったが、今ならわかる。きっと、不安を和らげるためだ。
「……俺、うまくできてるかな?」
「大丈夫。ゴウくん、メディカルチェックを受けに来た時、大分イライラしてたから。フォースの登場でピーンチ!」
アリマが拳を突き出しながら、叫んだ。すごく「それはパンチ!」という言葉を欲しがっていたが、残念ながら夕陽には伝わらなかった。
「もし、ナンバー4が復活したら、ナンバー5はどうなるの?」
「うーん……前回の様子だと、ナンバー4の完全復活は難しいと思う。でも、もしそうなったら、能力がなくなるまでは幽閉されるだろうね」
普通に生活していたらほぼ聞かないであろう、なんとも物騒な言葉が出てきた。
「幽閉って……」
「こんな怪しい施設と組織、外部に漏れたら大事件だよ」
この施設内のセキュリティの強さが、ゴッドブレスの特異性を証明している。夕陽のように、その現場を見ただけの人間が何を言っても、ただの空言として処理されるだけだ。しかし、ゴッドブレスを持った人間が、大勢の前でその力を見せつけたなら。まず狂うのは摂理か、それとも倫理観か。
「そう、だよね」
心に傷を負って、本当は望んでいなかったかもしれない特殊な力を与えられて。そして、用済みになるまで、自由を奪われる。
否でも、フォースとゴウの顔が浮かぶ。自分には「どうせ関係ない」と分かっていても、何も感じずにいる事は、もう、夕陽にはできなかった。
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