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肉じゃが三昧
ゴウは苛立っていた。
さっきから、何度も同じページを読んでしまう。集中して、頭の中を空っぽにしたいと本を読み始めたのに、一向にそれができない。
「チッ……」
何より、この苛立ちの原因がはっきりと分からない事が、さらに追い打ちをかけていた。
きっかけは、アリマからの電話だった。その内容は、夕陽とフォースの様子について、だ。
『あの子達、何だか気が合うみたい。結局、2週間の内で治療は一回だけでさ、後は2人でお菓子作りしたり、お部屋の模様替えしたり、ちちくりあったり……もうそれが、とっても微笑ましいんだよ!?』
「……知らないよ」
『今度、2人が作ったお菓子を持ち寄って、医務室でお茶会をすることになったから、ゴウくんも来てね!』
「……行かないよ」
『うん、強制参加ね!何はともあれ、明日でトライアル期間終了だから。フォースの状態から考えて、ゴウくんがメインでやっていくのは間違いないよ』
ゴウは少し安堵する。まだ、自分の居場所はありそうだ。
『夕陽も帰ってくるよ。よかったね』
「……うん、そうだね」
『アラ、素直。あ、わかった!また夕陽に家事を全部押し付けるつもりなんだね~?いなくな
って初めて有難さが分かったでょう!?』
「はいはい、そうですね、切りまーす」
『ホラ、図星だ……ツー、ツー』
強引に通話を終了して、ため息を吐いた。
「お菓子作り?模様替え?」
ゴウが部屋を見回す。あちこちに服が脱ぎ捨てられている。
「いい御身分だな」
そしてゴウは、再び本を手に取った。
「ゴウ、今日の飯ー」
鹿野が、やってきた。恐怖の時間だ。
「バンビ、まさかまた……」
「今日は肉じゃがですよ~」
「今日も!だろ!」
鹿野は鍋いっぱいの肉じゃがを手に持ち、良い顔をしていた。ゴウの言うとおり、昨日も、
その前の日も、そしてその前の前の日も、肉じゃがだった。しかも、3食すべてだ。
「今日のは、グリンピースじゃなくてインゲンで作ったのよ?」
「そのパターン、おととい食ったわ!」
「まあまあ、味には自信あるから」
こうも続くと、味とか具材とか、もはやそういう問題ではない。体が、肉じゃがを拒んでいる。匂いをかいだだけで、びくっと震えた。後ずさりするゴウを鹿野が追いつめる。
「今日で最後の晩餐だぜ。俺の料理、食い納めよ?」
ゴウは、「料理を習おう」と心に決めた。
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