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儀式※

 2週間の任期を終えた夕陽は、大量の洗濯物を次々と片付けていた。部屋中に散らばっていたので、それらを集めることから始まった。どんなにたくさん枚数があっても、タオルはピンと伸ばし、綺麗に折り目を付けて置きたい派なので、時間がかかる。その横で、ゴウがソファに寝転がり、読書をしている。 「それで?ナンバー4はどうだったの。アッチの方は、よかった?」  ページから目を離さずに、ゴウが問う。散らばったタオルや脱ぎ散らかした服よりも夕陽が気になったのは、ゴウが朝からやけに突っかかってくることだ。 「いえ、フォースさんとはそういう事まったくしてなくて……なんか、穏やかな日々でした」  やられっぱなしは気に食わないので、ちょっと、攻撃してみる。ゴウに小ダメージを与える事が出来た。夕陽を見て、不服そうな顔をする。 「あっ、そう。ねぇ、封筒開けるからペーパーナイフとって」   ゴウが、ゴッドブレスの治療依頼の封筒をペラペラと振る。夕陽は棚からペーパーナイフを 取って、手渡した。 「いっ……」 指に、チクリと痛みが走る。見ると、人差し指と親指に赤い線が入っていた。そこから、血がぷつりと膨らむ。見る見るうちにしずくが大きくなり、筋となって流れた。 「あれ、切っちゃった?ごめんね、でも刃の方持ったら危ないじゃん」  ゴウは謝ってはいるが、資料を読むことに重きを置いていて、夕陽の方を一度も見なかった。さっきの攻撃の仕返しだろうか。「だからって、やりすぎなんじゃないか?」と、少しむかついた夕陽が、低く唸る。 「……刃の部分は人に向けちゃだめだって、教わりました」 「そう……誰に?」 「え?親か、学校の先生だったと思いますけど……」 「あー。両方いなかったからな、俺。学校も行ってないし。だから教わってこなかったよ。今更直せないし、見逃して」  そう言われてしまうと、夕陽は何も反論できない。 「さて、と」  資料を読み終えたゴウが、黙ったままの夕陽に詰め寄る。この後は、ゴッドブレスの治療が待っている。となれば、夕陽がすべきことは一つだ。 「あ……僕、準備してきます」 「いや、いい。あいつとは、しなかったんだよね?」  ゴウが夕陽の手首をつかみ、その手に力が入る。夕陽は気付いてしまった。ゴウは、フォースに劣等感を抱いているのだ。 「個人差が、あるって言ってました。それに、フォースさんはまだあどけない感じで……」  ゴウにフォローを入れたつもりが、逆に火に油を注いでしまったようだ。 「まあ、俺の方がちょっと年上だし。でもそんな年下の方が、ゴッドブレスの力をちゃんとコントロールできるもんな。それに比べて、俺って出来損ないだよね」  自身を嘲るように、ゴウが言い切る。その瞳の中には、孤独が映されていた。夕陽は急いで否定する。 「い、いいえ、そんな……」 「なに?こんな奴の事、慰めてくれるの?……なんかさ、久しぶりに血、見たから興奮しちゃった。こっち来て」 「うっ……」  ゴウが、夕陽の手を傷口の上から握る。ピリピリと鈍い痛みを感じ、脊髄反射で引っ込めようとするも、阻止された。 「こんなに血が出て。かわいそう」  そう思うなら離してくれればいいのに、そんな気は全くないらしい。夕陽の傷は、見た目よりも深いようで、さっきから血が止まらない。 「あの……汚しちゃうから」  ゴウは自分のベッドの端に夕陽を座らせ、血を堪能している。シーツが真っ白なので、汚れると目立つし洗濯が大変そうだ。 「いいよ、そんなの。ここ、来て。正座」  後始末をするのは夕陽だ。「よくない!」と心の中で叫びながら、ゴウのいう事を聞いた。 指定された場所は、ゴウのすぐ前だ。向かい合うように座る。 「あれ、監視カメラね。俺を隠すように、そこで居て。手はこっち」  傷がある方の手を胸の前で構えさせられる。訳が分からずゴウの方を見ると、ばっちり目が合った。 「ちょっ、視線は壁へ!ぜったい、俺の方見ないでよ?」 「は、はい」  だいたい、察しがついた。そう思った時には、すでに始まっていた。 「にしてもさ、性欲関係なしにコントロールできるなんて、フォースのフォースくんって役に立たないんじゃない?ははっ」 「ゴウさんは、これが一番効果あるんですよね?」  夕陽は、壁に向かって話しかける。下の方で、ごそごそと布が擦れる音が聞こえてくる。 「……ん。ていうか、他を試したことが無い……わっ、すごいことになってる!」  ゴウが自分のものを見て、何だか嬉しそうに叫んだ。夕陽が思わず吹き出す。 「おまっ……絶対、見るなよ!恥ずかしいんだから」 「いつも、もっと恥ずかしいコト、してるじゃないですか」  夕陽が「しまった」と舌を出す。いつもの癖で、煽ってしまった。またゴウが、気分を害すだろうか。しかし、予想外の反応が帰ってきた。 「な、な、何言ってんの?あれ、ただの、ぎ、儀式だから。今のも儀式だ!」  おそらく顔を真っ赤にして、慌てているに違いない。夕陽は、ゴウの事がだんだんわかってきた。大人ぶったり悪ぶったりしているが、本質はフォースと変わらないんじゃないだろうか。 「はい。儀式、がんばってください」 「ぐぅ……ま、時間もないし……」  ゴウは、張りつめた自身を慰め始める。もうすでに先が濡れていて、想像以上に滑らかに手を動かす事が出来た。その刺激に、追いつけず、声が漏れる。 「……んっ」  部屋に、自分の吐息が響く。それに驚いたゴウが、夕陽の肩に頭を沈めた。響かないようにしたいらしい。それでも刺激を求める事は止められず、手の動きが早くなる。 「ふっ、あっ……」  擦る音が、水分を十分に含んだものに変わり、そのことでさえもゴウを刺激する。 「んっ、あっ、あ……きもち、い」  無意識に漏れる声をどうにか押さえたくて、ゴウは丁度目の前にあった、夕陽の白い肩にかぶりついた。 「痛っ」  少し抗議したが、それはもうゴウには届いていない。荒い息を繰り返して、ちゅくちゅくとリズミカルに自分を責めていた。限界はもう、すぐそこだ。 「んっ、んっ……んーっ、あっ!ばっ……」  ゴウが急に、動きを止める。心配した夕陽が、空いている方の手でゴウの背中をさする。 「ゴウさん?」 「……ばとんたっちぃ」 「ええっ!?」 「だって、手がもう動かないんだけど。治療するのに困るし」  確かに、ゴッドブレスの治療が出来なくなってしまっては、元も子もない。夕陽は、ゴウの言葉で表現するなら『儀式』を再開するため、バトンタッチに応じた。  ゴウのそれはかわいそうなほど張りつめて、その時を待っていた。先走りであふれた密により、十分に濡れているので、それを利用してからめ取るように撫でてやる。 「うっ……」  ゴウが反応を示してくれて、夕陽は安心する。緩急をつけて擦ると、しだいにゴウの息が上がり始めた。 「はっ、それ、いい」  夕陽は、ゴウが自己申告してきたいい所を重点的に、速度を次第に早めていった。しばらくすると、ゴウがビクンと身体を震わす。これが合図。後はスピード緩めずに、追い詰めていく。 「うわっ、やば……はっ、んぅ……い、イク、いっ!」  どくどくと脈打つのと同時に、勢いよく熱い欲が放たれる。それは、夕陽の腹にべたりと張り付いた。 「はぁ、はー…んっ……」  息を整えるゴウに代わって、最後まで搾り取ってやる。 「はー……すっきりした」  ゴウはすっと立ち上がり、シャワーをさっと浴びてから着替え始める。着替え終えたころに、鹿野がやってきた。 「夕陽、医務室行ってきな。今日はついてこなくていいや」  そう言い残し、ゴウが鹿野とともに治療に出かけた。その間、3分。  夕陽は、玄関のドアがガチャリとしまった後、汚さないように最善の注意を払いながら、バスルームに移動する。 「……賢者タイム早くない?」  鏡の自分に向かい同意を求めるも、もちろん返事は返ってこない。一瞬、夢だったのかと疑ったが、肩にくっきり残る歯型と、まだ血が止まらない、指の傷口が、現実だと告げてくれ た。  

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