22 / 39
あの日のお茶会
「ゴウくん、鹿野くん、お疲れ様~」
鹿野は、空いた口が塞がらない。アリマは何を考えているのだろうか。ナンバー4とナンバー5を接触させるなんて。そんな鹿野にアリマは気付き、耳打ちする。
「鹿野くん、大丈夫だよ。治療の一環だから。ん、いいお尻」
それだけ言うと、ついでに鹿野の尻にセクハラを働いてから「あれ?ゴウくんそれ、どしたの?手当てしてあげる~」と、離れていった。
「鹿野さん、こっち座ってください」
「え、あ、うん」
いつもは書類でいっぱいのアリマの机がきれいに片付けられていて、今は、ティーカップにミルクと砂糖、クッキーやチョコレートケーキなどがところ狭しと並んでいた。
「鹿野さん、ゴウさんは調子悪くなってないですか?」
夕陽が、とても心配そうに尋ねる。本当のことは言わない方がいいだろう。
「ああ、大丈夫だったよ。帰りに……フツーに転んだけど」
鹿野の席は、フォースの隣に設けられていた。これもアリマの陰謀だろうか。
「看守さん、お久しぶり~。今日はみんなでお茶会だよ」
フォースが、鹿野の前に取り皿とフォークを置いた。
「これは、2人が作ったの?」
「うん!ていうか、ほとんど夕陽が作ったんだけどね!」
「フォースさんも、お菓子作り上手ですよ?」
そして、笑いあった。つられて鹿野も笑う。微笑ましい二人のやりとりを見ていると、現実を忘れてしまいそうだ。
「お待たせ~」
アリマがゴウを連れ、戻ってくる。同時に、紅茶のいい香りが広がった。アリマが全員のカップに注いでいく。
「君がナンバー5?ごめんね、迷惑かけちゃって」
ゴウが、驚いた表情でアリマを見る。アリマは肩をすくめるだけだ。なんとなく、状況を飲み込めてきた。
「いや……ゴッドブレスの大変さは、俺もよく知ってるから」
「そうそう、私たちは同じチームなんだよ?仲良くしようねっ。形だけでも」
「アリマさん、一言余計っす」
ゴウと鹿野とアリマは探りながら、夕陽とフォースは素直に楽しんで、しばらく、会話やお菓子を堪能した。
「フォース、この紅茶、どうかな?」
アリマが、少し緊張気味にフォースに尋ねた。
「うん、おいしよ……あと、なんか、懐かしい味がするかも」
その答えを聞いたアリマは「そう、よかったねぇ」と安心した表情を見せる。
「じゃ、俺はそろそろ帰るよ。報告書書かなきゃだし。ごちそーさん」
鹿野が立ちあがる。何も言わずスマートに、自分が使った食器類を洗ってから帰った。その
姿を目撃した夕陽が、ひどく感動した。
「僕も戻るね。楽しかった!あ、夕陽」
フォースが夕陽を抱き寄せる。そのまま、長いハグをする。
「2日後に治療なんだ。まだ天使いさんが決まってなくて。だから夕陽で充電させて~」
夕陽は「がんばってくださいね」と、フォースの頭を撫でてやる。その様子をゴウはずっと
みていた。モヤモヤする。
「また絶対お茶会しようねー」
そう手を振り、フォースが医務室を去った。
夕陽が食器洗いをしている間、ゴウとアリマの井戸端会議が行われた。
「先生、あれ……ナンバー4?」
「正真正銘のね……ま、あんな感じなので、ゴウくん、よろしく頼むね」
「ゴウさん、フォースさんと会うの初めてだったんですか?」
夕陽が、夕食の準備をしながらゴウに尋ねる。ゴウは、いつもの体勢で本を読んでいた。
「いや、初めて会ったのは2年前。その時は交互に2人体制で治療してたんだ。……あいつ、その頃とはずいぶん感じがかわってるよ」
「そうなんですね。なんか思ってたより全然明るくて、元気で、フォースさんが不調だったなんて想像つきません」
「確かにね。まあ、あいつが完全復帰できたら、俺はお役御免かなー」
夕陽の頭の中に、アリマから聞いた「幽閉」という言葉がよぎる。
「……その後は、どうなるんですか?」
「この力がある限り、ここから出られないねぇ。ま、衣食住は保障されるし、生きてはいけるんじゃない?つまんなそーだけど」
ゴウは淡々としている。そう、見せている。ゴッドブレスがこの施設から外へ出たという前例は、ない。フォース以前のゴッドブレスたちは、死んでいるのか生きているのかさえ分からない。生きていたとしても、力が使えないのはつまり、無事ではないという事だ。この施設のどこかでずっと治療を受けているのだろう。事実は、隠されているのだ。
「先が選べないって、怖くないですか?」
夕陽の声が震える。「今はつらくても、必ず幸せが訪れる」そう言った言葉は、前を向いている人にだけ通用するものだ。ぬかるみにはまらないよう、必死で下を向くしかない者には、歩く道さえ選べない。
「でもさ、選べなくても、今できる事をやるしかないんだよ。それが、生きるってことなんじゃないかな」
夕陽が、ゴウを見つめる。なんて、まっすぐなのだろう。
「あれ?俺、良いこと言っちゃった?」
恥かしくなって茶化すゴウを夕陽はかわいいと思った。
ともだちにシェアしよう!

