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鹿野とフォース①
「あの子は特別でね。最高傑作だよ。壊れないように、最優先で頼む」
金に目が眩んで、怪しげな施設に連れてこられてから早2年。鹿野はお偉いさんに呼び出され、次の仕事を言い渡された。
「天使い?なんじゃそら」
読んでおくようにと渡された資料に目を通しながら、鹿野がつぶやく。今までいろいろな仕事を言い渡され、その度に資料を熟読したが、見慣れない単語が書かれていた。
この更生施設の存在理由である、ゴッドブレスを持つ者。それが職務を全うできるよう、身の回りの世話をして、心身ともに安定させることが、「天使い」とやらの仕事らしい。
その中で、特に上品に書かれていたのは、いわゆる性処理の重要性だった。性欲をコントロールすることで、ゴッドブレスの力も安定する、という研究結果が出たらしい。
異性だと面倒が起きるため、同性をあてがう、ということだ。
「考え方きっしょー」
鳥肌を立てた鹿野だったが、金がもらえるなら何でもいいや、と、新しい仕事の内容を飲み込むことにした。
案内された部屋に入ると、くせっ毛な亜麻色の髪の少年が、ぽつりと立っていた。
「こ、こんにちは」
少年は手を後ろに組んで、恥ずかしそうに挨拶をした。
「はい、こんにちは」
鹿野は少年に微笑みかけ、挨拶を返す。「立ち話も何なので」と、鹿野が部屋の奥へ進む。少年がそれについて行った。「君の部屋なんだけど」と、言おうとしたが辞めた。
ソファに2人並んで座り、しばらくの間沈黙が続く。その間、少年が鹿野をチラチラ見たり、何度か話しかけようとして口元だけはくはくと動かしたりする。その様子に、鹿野が吹き出した。
「あははっ!ご、ごめん。なんか、可愛くて」
「かっ……」
少年は、鹿野の言葉に顔を赤くした。
「あ、今日から君の天使い?になった鹿野です。よろしくね」
少年の顔が、さらに赤くなる。なるほど、天使いが何をする役職なのか、この少年も理解しているらしい。
それにしても、こんな年端の行かない子供に天使いをつけるなんて。上の連中は、やはり頭がどうかしている、と鹿野は思った。
「あの、な、ナンバー4です。よろしくおねがいします」
自分のことをナンバー4と名乗る少年が、ペコリと頭を下げた。ナンバー4。機密を守るためとはいえ、なんとも冷たい、血の通わない呼ばれ方だ。鹿野はナンバー4を凝視しながら、頭をフル回転させる。
「そうだな……フォースってのはどう?」
「え?」
「君の呼び方。4って意味と、力って意味をいい感じに合わせてみた」
「フォース……うん。かっこいいです」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
「あと、敬語とかいらないから。フォースから見たらおっさんに見えるかもだけど、俺もまだ一応10代……」
「すみません、僕、施設からすぐここへ来て……お、同じ歳の人と、話すの、初めてだから」
フォースがそう言ってうれし恥ずかしそうに俯く。
この施設へ来て間もない頃、噂で聞いた事がある。ゴッドブレスという能力は先天性のものではなく、何らかの試験に合格した者のみに後天的に発現する能力らしい。その試験を受けさせるのは、いくつかの条件を満たした、孤児院出身の身寄りのない子供なんだとか。
施設出身というフォースの言葉に、遠い記憶を思い出していると、鹿野はある違和感に気づき絶叫した。
「同じ歳!!?」
目の前のフォースは、どう見ても、どう足掻いてみてもせいぜい中学生だ。鹿野が出した大声に、フォースが驚いてビクッと体を揺らす。
「あ、ご、ごめん。つい」
「う、ううん。久しぶりにおっきな声、聞いた……ふっふふ……」
何かがツボだったらしい。フォースがくすくす笑い始めた。
「え、そんな面白いことあった?」
「うふふっ。だって……鹿野の顔が……」
どうやら、鹿野の顔がツボだったらしい。
「おーい、人の顔見て笑うなー」
同じ歳の2人が打ち解けるのに、時間はかからなかった。
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