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フォースの宝物
次に目が覚めた時、フォースは自室のベッドに横たわっていた。体が、思うように動かせない。
「気分はどうだい?」
見知らぬ顔に、フォースが戸惑う。
「ああ、すまない。自己紹介がまだだったね。はじめまして。君のカウンセリングを担当する、三嶋だよ。よろしくね」
「三嶋……先生」
フォースが、何かを探すように視線を動かす。
「鹿野は?」
「鹿野くんには、しばらく席を外してもらっているよ。君はまだ、不安定な状態だからね」
「そう、ですか」
フォースが、寂しいような、少し安心したような顔をした。
「鹿野くんと居ると、落ち着く?」
「はい。鹿野が居ると……居てくれるだけですごく安心します」
フォースが、とても穏やかな表情になった。彼にとってあの青年が、やっと見つけた大切な宝物なのだろう、と、三嶋は理解した。
「それはいいね。もう少し君の状態が安定してきたら、鹿野くんにずっと一緒に居てもらおう」
「はい!」
フォースは無意識にそう返事をし、慌てて訂正した。
「……いや、ダメです」
自分がここから出られる事はない。出ていこうとも思わない。なぜなら、こんな自分がこの場所で必要とされている。だからそれで良いと思っていた。けれど、鹿野はどうだろう。彼は、外の世界を知っている。楽しそうに、その話をしてくれた。それを聞くのが、本当に嬉しかった。自分が鹿野を求める事は、鹿野が持っている、自由に羽ばたくことができる翼を捥ぎ取るという事だ。
「……先生、鹿野にはもう、ここに来てほしくない」
フォースが涙を流しながら懇願した。
「わかった。君の意思を尊重するよ……つらい決断だったね」
三嶋がフォースを優しく抱いた。
フォースと離されてから1週間後、鹿野はフォースのカウンセラーを担当する、三嶋という男に呼び出された。
「はじめまして。三嶋です」
その男はカウンセラーというだけあって、とても穏やかな表情で、話していると安心できるような、自分の身をすべてをゆだねたいと思うような、そんな雰囲気を持っていた。
「ども、鹿野です。あの、フォースは」
鹿野の目的は、この男との会話を楽しむことではない。挨拶もほどほどに、本題を切り出した。
「少しずつだけど、回復に向かってるよ。まだ時間はかかりそうだけどね」
鹿野は、ひとまず胸をなでおろした。
「フォースに会いに行っていいですか?時期とかはその、プロの三嶋先生の指示に従います」
三嶋の表情が曇る。
「そのことなんだけどね。フォース君は、鹿野君にもう会いたくないようなんだ」
「は?」
「君といるとね、すごく安心するって。フォース君言ってたよ。でも同じくらい、とても虚しくなるんだと思う」
「それは!」
「うん。わかるよ。こんな感情、本来ならおかしい。でもね、フォース君が今まで生きてきた環境を考えたら、頭から否定できない。今は彼に、時間をあげてほしいんだ」
フォースの過去を鹿野はよく知らない。だから、そう言われてしまうと、反論できない。ゴッドブレスを失敗したことに、あれほど取り乱すのだ。自分がおかしいと思う事柄が、フォースにとって大切な意味があるということだけはわかった。本来、当然に受け取っていい環境から距離を置く。それが、フォースが今出した答えなら、自分は信じて待つことしかできない。
「わかりました。待ちます。先生、フォースを宜しくお願いします」
「ありがとう。最善を尽くすよ。君と彼が、また笑顔で過ごせるように」
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