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ゴウと夕陽

   風呂から上がり、髪が乾かないうちにベッドでキスを楽しんでいると、タブレットから音が鳴った。アリマからのビデオ通話だ。2人は急いで乱れた服と髪を直す。 『やっほう、2人とも、久しぶりっ!元気~?……エロいことしてただろ!』 「あ、あーちゃん、シャワー浴びてきただけだよ?」 『の、割には夕陽、耳が真っ赤だよっ』  夕陽が急いで耳を隠す。ゴウが「赤くない、うそうそ!」とフォローを入れるが、もう遅かった。 『いや~ん、ゴウくんのエッチ!私の夕陽に何するの!?』 「えっと、おいしくいただきました……いてっ」  頭を下げるゴウの頭に、夕陽がげんこつを食らわす。 『あのね、そんな事はどーでもよくて、ビッグニュース!!』 『……』  アリマが、笑顔のままピタリと止まる。まるで静止画だ。焦らす。とことん焦らす。2人はアリマの表情から、ニュースを読み取ろうとする。なんだろう。全く予想がつかない。美味しい茶葉が手に入ったとか、そういう事だろうか。 『組織の解体が決まりました~』 「えっ!」 「え」に点々をつけた発音で、2人同時に叫ぶ。 「ど、ど、どういう事?」 「組織って、ゴッドブレスを運営してる組織だよね?」 『かくかくしかじかでね……』  アリマが言うには、上層部に匿名で、ゴッドブレスの研究とずぶずぶだった孤児院を特定し た旨のメールが届いたそうだ。子どもに試験を受けさせている映像と、そのうちの一人である 人物の手記とともに。  無論、鹿野の仕業だ。 『もともと、政府の息がかかったお金持ちが作った組織だからね。利益より、保身を取ったってことだね。ちなみにあの施設は、有料老人ホームに生まれかわるよん』 「じゃあ、俺は……」 『おめでとう、晴れて自由の身だ!』   アリマが画面の向こうで拍手喝采している。 「いや、でも……俺達の存在が世の中に知られたらまずいんじゃ……」 『何言ってるの?今回の件は別として、あの施設の秘匿性は完ぺきだったでしょ?それに、いくら君が、僕、ゴッドブレスっていう力が使えるんです!って騒いだところで、ただのかわいそうな中二病の子、くらいにしか思われないよ』 「中二病って……俺の力って……」 『確かに、勿体によねー。あと、個人的な話なんだけど私、診療所を開く事になったんだっ。そこの暇そうな二人、オープニングスタッフとして、雇われてくれない?』  夕陽とゴウが未だ話についていけず、混乱している。 『あ!そこまで言うなら、こっそり、ほんとにこっそり、たまに、私の診療所でその力を使ってくれたらうれしいなぁ』 「あーちゃん!」 「先生!」  夕陽とゴウが同時にアリマを咎めた。 『じゃ、お邪魔虫は消えまーすドロン!』  通話が終了し、黒くなった画面に夕陽とゴウの顔だけが映される。それから顔を見合わせて、笑いあった。    幸せは、突然訪れる。こうも、とんとん拍子に事が進むのか。怖い。またいつ崩れるか、分からない。夕陽は、幸せの享受に慣れていないのだ。  それでも、また、ゴウと一緒に居られる。その事実が、何よりうれしい。 「な、泣き損だったな……え?ゴ、ゴウさん、なんで?」  ゴウの目から、とめどなく涙があふれでる。 「え?う、うれしくて……」  幸せが崩れる事は、もちろんある。でもこの人となら、うまくやっていける。例え、困難が訪れても、乗り越えられる。そう、確信した。 「これ……ぐすっ……水滴だから」 「無理やりだなー」  夕陽は、ゴウの目から涙を吸い取ってやった。そのまま、口づける。 「誓いのキス。これからも、一緒に居ようね」 「もちろん。泣いても離さない」  泣いているのは、どっちだ。見つめ合い、笑い合う。この笑顔がずっと、続きますように。

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