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第42話

煌びやかなシャンデリアの下、グラスを片手に人々が談笑するなか、 その声はまるで爆弾のように空間を切り裂いた。 「東雲誠司ッ!!」 場が凍りつく。 視線の集中する先、入り口で息を荒げているのは―― 派手なワンピースに身を包んだ女。 誠司の表情が一瞬で強張る。 「……なぜ、君がここに……」 呟いた次の瞬間、女が駆け寄り、 振り向きざまの誠司の頬に、平手が炸裂した。 パアァンッ!! 音が鳴った瞬間、どよめく会場。 頬を押さえる誠司に、女は容赦なく怒声をぶつける。 「あんたのせいで、私の人生めちゃくちゃよ!!どうしてくれんのよ!!」 誠司の傍にいた同僚たちが駆け寄るが、女の勢いは止まらない。 「白井がクビにされたの、 あんたのせいでしょ!? 余計なことして!! 私がどんな思いでこの地位まで上り詰めてきたと思ってんのよ!!」 スピーチの後で立食が始まったばかりの会場は、一瞬で凍りついたような空気に包まれた。 その場にいた美羽も、悲鳴のような怒号に驚き、すぐに誠司のもとへ駆け寄る。 「誠司さん……!」 その声に反応した女が、美羽を見てぴたりと動きを止めた。 「……え? なに、その子……」 視線が美羽の全身を這うように滑り落ちていく。 そして、嘲るような声で吐き捨てた。 「……まさか、あんたの“妻”って、その子供?」 瞬間、誠司の眉がピクリと動く。 「……言葉に気をつけろ。」 「なにがよ! ロリコンじゃないの!? あんた、そんな子供みたいな女を……私に婚約破棄されたあと、そういう趣味に走ったわけ?キモッ!!」 場内に、ざわめきが再び走る。 「でも……今になって分かるわ。婚約を解消して、本当に正解だった。 あんた頭良かったし、絶対稼ぐ男になるって舞い上がったけど── まさか“子どもを作れない体”だったなんてね?」 「……!」 誠司の目が揺れる。 美羽が、きゅっと指先を握りしめた。 女は勝ち誇ったように、にやりと笑う。 「あんた、知っててこの人と一緒になったわけ? まさか何も知らずに奥さんやってるとか言わないよね?」 問いかけに、声が出ない美羽。 理解が追いつかない。 けれど、女の言葉の意味は──確実に胸を刺した。 「この時代に、子供が望めないなんて、あり得ないでしょ! 本当にそれで幸せになんかなれると思ってるの!?バッカみたい!!」 美羽の視界がぐらつく。 隣で誠司が小さく肩を震わせた。 「……っ……やめろ。」 低く、絞り出すような声だった。 けれどもう、遅かった。 秘密は暴かれた。 誠司が、自らの口で語らなかった“真実”は──第三者の唇から、最悪の形で美羽に伝えられてしまった。 「……誠司さん……本当なんですか……?」 かすれた声で問う美羽に、誠司は言葉を返せなかった。 その沈黙が、全てを物語っていた。

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