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第52話

誠司さんの唇が、鎖骨をなぞるように降りてきた。 肌の上に柔らかい感触が何度も触れて、そのたびに、息が小さく漏れてしまう。 (変だな……くすぐったいのに、気持ちよくて……) 僕の体は、たしかに男で。 胸なんて膨らんでいない、ただの平らな肌なのに―― 「……綺麗だな」 そんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。 「僕の、どこが……」 「全部。見た目だけじゃない。声も、表情も、照れる仕草も……全部」 唇の跡が、じんわり熱を残していく。 誠司さんの指が、そっと胸の中央に触れた。 「……!」 反射的に身を強ばらせた僕を、誠司さんは抱き寄せて、低く囁いた。 「大丈夫。俺は、美羽の全部が好きなんだよ」 涙が滲んだ。 嬉しいのに、胸の奥がぎゅうっと苦しくて、堪えきれずに零れ落ちる。 「……ごめんなさい、僕……こんな身体で……」 「そんなの、関係ない」 誠司さんの手が、胸をなぞるように動いた。 膨らみなんてないはずなのに、愛おしむように撫でられて、息が止まりそうになる。 首筋に落ちるキスと、肌に残る指先の熱。 触れられるたびに、自分の体じゃないみたいに感じた。 ――僕は、もう隠さなくてもいいのかな。 そんな風に思えるのは、この人だけだった。 「泣かなくていいよ」 そう言って、目尻にキスを落とされる。 その優しさに、また涙があふれてしまうのに、止められなかった。 唇が、また胸へと降りてくる。 膨らみなんてない、僕の胸の、肌の上に。 舌先がゆっくりと円を描くと、喉の奥で声が震えた。 「……っぁ……」 思わず声が漏れる。 知らなかった。 こんなに繊細な場所だったなんて。 男の体のはずなのに、まるで女の子みたいに感じてしまうなんて―― そう思った瞬間、また羞恥が押し寄せてくる。 でも、確かに僕は今、 愛されてる、って……そう、思えた。 何かを求めるように、自然と誠司さんの腕にすがっていた。 「美羽……」 名を呼ばれるたび、心までほどけていくようだった。 「感じてくれてんだね。俺に触れられて、気持ちよくなってくれるなら……それだけで、十分だ」 誠司さんの指先が、もう片方の胸の先にもそっと触れる。 唇と指で交互に撫でられて、 身体の奥がじわりと熱くなっていくのがわかった。 少しずつ、僕の手がシーツを握りしめていく。 気づけば、自分の足が自然と開いていて。 誠司さんの視線が、そこへゆっくりと向かっていくのを、僕はただ見つめていた。 「美羽、見てもいい?」 低く、でも震えるような声だった。 誠司さんも――怖いのかもしれない。 僕を、壊してしまわないかって。 だから、僕も、頷いた。 ゆっくりと、バスローブがめくられていく。 冷たい空気が触れるより早く、彼の視線が降りてきて―― 僕の“そこ”を見た誠司さんの表情は、驚きも困惑もなかった。 ただ、まっすぐで、優しい目だった。 「──これが、本当の君なんだなって、思った」 その言葉に、涙が滲んだ。 体のことなんて、どうでもいい。 この人は、今の僕を、ちゃんと見てくれてる。 「触れてもいい?」 震える声で訊ねる誠司さんに、僕は小さく頷いた。 僕の脚の間に片膝が入り込む。 そのまま、ゆっくりと身体を預けてきて、 僕の脚が自然に開かされていくのを、ただ受け入れていた。 指先が、下腹をゆっくりと撫でた。 男だと悟られてしまうはずの場所に近づいているのに、 なぜだろう、さっきまでのような強張りはなかった。 ――この人になら、全部見られてもいい。 「……やっぱり、恥ずかしい、から……」 そう言った僕の言葉に、 誠司さんは優しく微笑んで、僕の太腿の内側に唇を落とした。 「なら、目を閉じて。美羽が感じてる顔……俺だけのものにしたいから」 指先が、ついに触れた。 自分と同じ性を持つはずの“そこ”に触れられた瞬間、 喉から、震えるような声が漏れた。 「……ぁ……っん……」 くすぐったいのとも違う。 だけど、嫌じゃない。 触れられるたび、びくっ、と腰が跳ねる。 「……こんなふうにされるなんて、思ってなかった……っ」 「俺もだよ。でも、美羽が綺麗で……ちゃんと感じてくれるから……止められない」 誠司さんの手のひらが僕の足の裏から膝裏まで撫で上げ、 もう片方の手が、敏感になってきた先端を優しく愛撫する。 「っ……あっ、ん……ぅ、やだ、っ……変な声……っ」 「可愛いよ。……声、もっと聞かせて」 低く囁かれるたびに、体が熱くなる。 誠司さんの舌が、下腹部のつけ根をゆっくりと舐めあげた瞬間、 全身に電気が走るような感覚が駆け抜けた。 「っひ……! ん、や、ぁっ、……そこ、っ……ダメ……!」 言葉とは裏腹に、腰が勝手に浮く。 恥ずかしくてたまらないのに、 触れてほしい場所が、すぐそこにあるのに気づいてしまった。 ゆっくりと、中を探るように指がぬぷりと入ってくる。 中にあるしこりを見つけられ、そこに触れられるのに、腰が浮いてしまった。 「美羽……気持ちいい?」 「……っ、わかんない……でも、変……変なのに……気持ちい……っ」 彼の手がしこりを押し潰すように触れた瞬間、 一気に意識がぼやけて、 なにかがこみあげてくる。 知らない感覚に溺れていきそうになるたび、 誠司さんの指が、優しく、確かに、僕を導いていく。 気がつけば、シーツを握る手にも力が入っていた。 「美羽……、」 「っぁ……っ、ん……っ……あ……!」 誠司さんの声が、遠くで響く。 触れられるたび、揺れるたび、全身がほどけていくようだった。 もう、自分が男か女かなんて、どうでもよかった。 この人が、自分を見てくれている―― そのことが、何よりも嬉しかった。

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