9 / 61

第9話 重ね合う心と体①

 凌駕は首筋に唇を這わせる。耳朶を嬲り、頬に、瞼に、唇に、キスを落としていく。  大切な宝物を扱うように陽菜に触れる。  もう一度唇にふわりと口付けた後、顔を上げて、間接照明だけの暗い部屋で陽菜と視線を絡ませた。  「キス、嫌じゃないんだな?」  凌駕に訊かれ、咄嗟に声も出せず頷いて答える。  陽菜は何もかもを委ねる覚悟でこのセックスに挑んでいるため、当然キスも含まれているものだと思い込んでいた。  しかし向こうになればしてみれば、恋人ではないオメガとのセックスで気を遣うのは当然のことで……。  少しずつ試しながら進めていく。僅かにも陽菜が嫌がる素振りを見せれば、瞬時にやめてしまうだろう。  夜中に目覚めて、気を抜いてアルファのフェロモンに当てられた。凌駕も寝入ったタイミングだったかもしれない。陽菜のヒートで本能が無視できず、目が覚めてしまったのだと思われた。  申し訳なさが募り、眉を下げる。どう謝ればいいのか戸惑い、顔色を伺ったが、凌駕には煽っていると映ったようだ。 「素直に欲しがればいいのに」  囁いた言葉は聞き取れなかった。 「んっ……んっ……」  繰り返し唇が重なる。こんな官能的なキスをされると、勘違いしてしまいそうになる。  本当は凌駕も陽菜に意識が向いているのではないか、体の相性の良さを再認識してくれているのではないかと期待してしまう。  頭の片隅では(そんなはずはない)と冷静さを保っているものの、前回とは全く違う触れ方をされ、嬉々する感情を抑えられない。 「俺は溶けるほど甘やかすのが好きなんだ」 「は、い……」 「東雲のその表情は唆られる」  たっぷりとキスをされ、恍惚な眸をむけていた。  自分が噛んだ頸にキスをして、「甘い」と再びつぶやく。 『誠さんの匂いに似ていますか』  声に出してはいけない言葉の代わりに啼いた。  甘い毒に蝕まれていく身体は、もう凌駕を知らなかった頃には戻れない。  溶けて凌駕の一部になれたら、どんなに幸せだろうか。  キスをされただけで感情が爆発しそうだ。    しかしこのマンションのあちこちに存在を残している、誠の欠片が頭から離れない。  薬を飲むときに渡されたグラスは、凌駕のものとは別のデザインだった。  料理を手伝った時に見たお揃いの物ではないと、しっかりと脳にインプットされている。  脱衣所の化粧品は凌駕のものをわざと使った。タオルから別の人の匂いがしないか顔に押し付けて確認した。  顔も見たこともない誠を徹底的に避けた。  誠が名前で呼ばれていることすら妬ましい。  どうにか凌駕がこっちに意識を向けてくれないかと考える。考えようとして諦めた。  凌駕から与えられる快感は思考の猶予を与えてくれない。大きな掌が上肢を滑る。  スウェットを器用に剥ぎ取られ、華奢な体が露わになった。  息が荒い。陽菜だけではない。真上から陽菜を捉える凌駕もまた、呼吸を荒げていた。  陽菜の小さな胸の突起を口で探り当てると、そこに舌を這わせる。舌先で転がされ、甘噛みをされ、強く吸いつかれると、陽菜は何度も体を痙攣させた。  陽菜のヒートが強くなるほどに、凌駕へと放つフェロモンも濃くなっていく。  小刻みに息を吐き、凌駕の頭を掴む。 「そこばっかり……望月、せんぱ……だめ……」  身を捩らせようにも凌駕の体重が乗っていて、とても逃げられる状態ではない。  執拗に責められている胸から甘い痺れが全身に奔流する。このままでは胸だけで達してしまいそうだ。  陽菜は最も疼く下腹部を凌駕の腹に押し当てる。必然的に昂る屹立も擦られ、無意識に腰を揺らしてしまう。先端から流れる先走りの液が潤滑剤となったように滑り、卑猥な刺激を与える。  凌駕の中心に聳え立つ男根も、布越しにも伝わってきた。  ごりっと硬くて太いものが会陰に押し込まれる。 「あっ、ん……んん……」  じんわりと尿意にも似た感覚を腹の奥に感じる。  焦ったい。早く挿れて欲しい。  まだスウェットの中にしまわれている凌駕の怒張したそれで、掻き乱して欲しい。  陽菜は自ら腰を持ち上げ、びしょ濡れになった孔を凌駕の男根に擦り付ける。  しかし凌駕は自分の下肢は晒そうとはせず、陽菜の屹立を扱いた。 「気持ちいいか」  力を込めて擦られる屹立の先端から流れ出る透明の液が凌駕の手を濡らしている。それでも凌駕は最後までする意思はないようだ。  射精をすればスッキリするのは確かだが、それだけでオメガの本能は満たされない。  幸せは、一瞬で終わってしまう。    自分だけが狂いそうなほど欲情していて、みっともない姿を晒している。  分かっている。凌駕の心に別の人がいるのも、前回のようにアルファの本能に自我を失う失態を起こしたくないのも。全部、理解している。  でも欲しい。欲しくてたまらない。 「望月先輩の精を、注ぎ込んでくれませんか。人助けだと思って、いいですから」  陽菜のセリフに凌駕は喉をくっと鳴らし、眉根を寄せた。  自分の服を脱ぎ捨て、互いに一糸纏わぬ姿になると、陽菜の孔に指を挿入する。 「ひっ、ぁあ、ん、っく……」  指の間接が肉壁を擦り、長い指は奥へ奥へと飲み込まれていく。陽菜の感じる場所を把握しているのか、内側から前立腺を刺激される。 「んぁぁああっ、そこ……きもちい……はぁ……」  凌駕はオメガの液を掻き出すように指を蠕動させる。もう片方の手で絶えず屹立を扱かれ、陽菜は絶頂を我慢できなかった。 「んんっ、やぁ……んぁぁあ」  腰を持ち上げ、盛大に飛沫させる。自分の胸の辺りまで白濁が迸った。  それでも凌駕の動きは止まらない。三本の指で中を押し広げられ、激しく注挿される。 「待って、今、イったばかりで……激しいのむり……んん……」 「もっと解さないと、俺のものは這入らない。前回のように自分本位なセックスはしたくない。東雲に沢山感じて欲しいんだ」  凌駕は何度でも達していいと微笑み、陽菜の屹立を口に含む。  しとどに濡れているそこは、凌駕の唾液と混じってぐちゅぐちゅと淫靡な音を響かせる。口内の暖かさと、なんとも言えない感触に、陽菜は瞬く間に硬さを取り戻した。

ともだちにシェアしよう!