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第10話 重ね合う心と体②

 凌駕の指が絶えず孔の中を責め続け、快楽の終わりが見えない。  前も後ろも同時に嬲られ、鋭敏になった神経は簡単に絶頂へと誘う。  二度目は凌駕の口の中に射精()した。  一気に全身が力み、二度三度痙攣させて凌駕の口へ腰を打ちつける。その後はぐったりと身体をベッドに沈めた。 「はぁ、はぁ……」  呼吸を整えようと、小刻みに息を吐き出す。  ヒートは治っていないが、射精をしたことで少し落ち着きを取り戻しつつあった。  それでも凌駕はまだ一度も射精していない。  陽菜の精液を飲み込むと上体を起こし、男根の先端を孔に当てがった。 「挿れる……」と言ったか言わなかったか、それすら聞き取れないほど混濁する意識の中、ズブズブと肉胴を押し広げながら這入ってくる凌駕の男根に、快楽の悲鳴を上げる。 「あっ、んぁぁっ……はいって……」  二度も絶頂を味わった陽菜は感度が増し、男根が柔肉を擦る刺激だけで白蜜を溢れさせる。  凌駕は腰を揺すりながら、熱い息を吐き出す。快楽の波に呑まれながらも、少し表情を読み取るくらいにはなっていた。凌駕でもこんな余裕のない顔をするんだと、意外な感じがした。嬉しくもあった。  真っ直ぐに陽菜を見ている気がする。けれどきっと二人の間に、誠というフィルターがかかっている。  それでもいいや、と今は思える。誰かと重ね合わせていたとしても、陽菜を相手に萎えていないのだから。擬似的に凌駕の愛を受け取れるために恋人(仮)を申し出たのだ。  凌駕から向けられる感情がどんなものであったとしても、全部受け止めたい。  凌駕の長大なそれが肉胴を埋め尽くす。  最奥まで到達した亀頭で肉壁をぐいと押し込む。 「ん……全部、這入った……」  小さな達成感を悦んでいる凌駕は年上とは思えない。上司相手に可愛らしいと思うのは失礼だから口にはしないが、セックスに慣れている人でも一つに繋がるのは特別なのかもしれない。 「望月先輩……」  腕を伸ばすと、陽菜に覆い被さり口を塞ぐ。  食べられているようなキスをしながら、ゆらりと律動し始めた。 「ん……ぅん……」  舌を絡ませながら、腹部の圧に身悶える。苦しいのに、気持ちいい。  指とは比べ物にならないほど太くて硬い。疲れる度に、喘ぐ声も泣きすぎて絶え絶えになっていた。  出来るなら一緒に達したいが、凌駕はまだ切羽詰まった感じがしない。むしろここからが本番とでも言いたげな硬さを保っている。ドクドクと耳まで響く脈動は、陽菜のものなのか凌駕のものなのか判断がつかないほど、興奮していた。    注挿を繰り返す凌駕は、陽菜が何度絶頂に達しても律動を止めないだろう。  眸の強さが違っている。とてもアルファらしい……獲物に狙いを定めた熱を孕んでいる。  陽菜は陶然としながらも、アルファの独占欲剥き出しの視線にぞくりと肩を戦慄かせた。  痛いほど刺さる視線に法悦は最高潮に達する。  凌駕から絶えず最奥を貫かれ、快感は電流の如く全身を駆け巡る。 「んぁ!! も、だめ……いく……いく……はぁっ、ぁああ!!」  背中を撓ませ足先まで力むと、また陽菜だけ絶頂に達してしまった。  寂しい気持ちになり、落ち込んでしまう。 「一緒に、イキたかったのに」 「大丈夫、まだまだ付き合ってもらうから」  それから凌駕は何度も体位を変え、男根を突き続けた。  陽菜は途中で意識を飛ばしてしまい、凌駕がいつ絶頂に達したのか覚えていない。我に返った時は腹の中に温かい重みを感じたが、凌駕はまだ陽菜の中にいて、律動を続けていた。  まだ繋がっていることに悦びを感じる。もっと求めて欲しい。必要とされたい。  自分だけを好きになって欲しいなんて言わないから……。  明け方頃まで抱かれ続けた陽菜は、結局凌駕と一緒にはイケなかったが、たっぷりと注がれた精に心も本能も満たされた。 「少し眠ったら風呂に入ろう」 「……は、ぃ……」  喘ぎすぎて声は出ないが、なんとか返事を返し、今度こそ凌駕と共に眠りにつく。  幸せだった。ふわふわの雲の上でくつろいでいる気分だ。  泥のように眠った陽菜たちが起きたのは日が高く登った昼過ぎだった。  全身が怠くて重い。自分よりも体温の高い凌駕に抱き締められて眠っていたとはいえ、寝起きは震えるくらい肌寒い。自分の着ていたスウェットを手繰り寄せ、頭を通していると、凌駕が目覚めてしまった。 「服を着るなんて、寂しいじゃないか」  凌駕は陽菜の手からスウェットと取り上げ床に落とし、すっぽりと包み込んだ。 「おはよう、東雲」鼻先で額をくすぐりながら囁かれる。くすぐったくて、肩を竦めた。 「おはようございます。少し寒くて」 「風呂の準備をしてくるから、包まってろ」  夜中、陽菜を翻弄し続けたとは思えない爽やかさで寝室を後にする凌駕。  一緒に入った風呂で、また求めあう。舌を絡ませながら、互いの体にボディーソープの泡を塗り広げていく。腰を寄せられると、二人の中心は昂っていた。シャワーで流しながら陽菜を壁に向けて立たせると、凌駕は背後から立ったまま最奥を貫く。 「あっ、ん、ぁ……」  自分の喘ぎ声が浴室で乱反射する。凌駕はもっと声を出せと言わんばかりに激しく注挿を繰り返す。  陽菜が先に果て、一度男根を抜いた凌駕は浴槽に座りながら再び挿入した。  昨夜から凌駕を受け入れている孔は、簡単に奥まで飲み込んでいく。乳首を舐められながら孔も責められ、凌駕絶頂に達するまでに陽菜は二度果てた。    夜の熱が冷めて現実を見るのを躊躇っていたが、全くの杞憂に終わった。  週末の間中、服を着る暇もないほど凌駕は陽菜を求めた。リビングで、キッチンで、食事をとりながらも凌駕は陽菜を求めてくる。 「俺は嫉妬もするし、束縛もするし、性欲も強い。東雲が嫌になればいつでも振ってくれて構わない」  もう何度目かもわからない情交の最中、凌駕が言う。 「望月先輩からの好意なんて、受け取るほどに欲が出ちゃいそうです。先輩こそ、いつでも突き放してくださいね」  心にもないことを言ったのは、きっと凌駕が反論してくれると思ったからだ。案の定、凌駕は自分から陽菜を遠ざけたりしないと言ってくれた。    心はこれ以上ないほど満たされ、週末が終わってしまう。 「本当に始発で帰るのか? ここから出社すればいいだろう」 「スーツもないですし。僕たちが一緒に会社に行けば女性社員たちの噂のネタにされますよ」 「まぁ、それもそうか……名残惜しいが我慢する。その代わり、夜はまたここで」 「いい……んですか?」 「いけない理由なんてない。仕事が終わり次第、連絡してくれ。帰りは俺の車で帰っても良いだろう。今度こそはここから出社できるよう準備してくれ」  早くも束縛が始まった。陽菜は少し可笑しくてふふっと笑う。 「はい」と返事をし、凌駕の懐に潜り込んだ。

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