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第23話 帰ってきた部屋①
凌駕を纏うオーラが変わった。
ラット状態に入っている。亀頭球が現れ、絶頂に達するまで抜けなくなった。
こうなれば陽菜がどれだけイっても容赦はない。本能に抗うことなくオメガに精を注ぐことだけに専念するのみ。陽菜は最奥を突かれただけで吐精したが、凌駕は律動を止めようともしない。
鋭く突き刺さる視線で「俺のものだ」と言い聞かされているようだった。
腰を打ちつけられる度に陽菜は絶頂を味わう。
蕩けてまともに眸も開いていない虚ろな陽菜の様子を見て、凌駕は蠱惑的な笑みを浮かべる。
「もっと気持ちよくしてやりたい」凌駕は陽菜の屹立を握り上下に扱き始めた。
「やぁっ! 待って……ずっと、イくの止まらない……」
「でも触って欲しそうに揺れている」
溢れ出る白濁で凌駕の手はあっという間にびしょ濡れになった。
ぬるりとした感触と絶妙な力加減に、陽菜の感度は増す一方だ。孔と屹立を同時に責められ、もうこれ以上何も出ないと思うほど吐精したにも関わらず、ムズムズと燻る感覚に気付く。
これは……と、冷静ではない頭でもはっきり分かった。
「先輩、出る……、出てしまう……」
「あぁ、一週間分、全て射精せばいい」
「ちがっ、そうじゃなくて。あっ、だめ、我慢できない」
キツく目を瞑り、イヤイヤと顔を振る。これ以上痴態を晒したくない。好きな人の前で漏らすなんて経験をしたくない。必死に我慢をしようにも上手く力が入らない。
凌駕の手が若干力を込めた、その瞬間、陽菜の先端からは精液ではない水分が迸る。勢いの良い音を立てながら、凌駕の下腹部に向けて噴水のように飛沫せた。
「見ないで……恥ずかしい……。な、んで……止まらない」
普段の尿よりもたっぷりと溢れ出るそれに、凌駕は興奮して「潮を噴くほど感じてくれているなんて」と、陽菜の中に這入っている男根を更に太くさせた。
「潮?」
「あぁ、初めてだよな。陽菜は俺を喜ばせるのが上手いな」
腰を揺らしながら凌駕が言う。
———これが、潮……。
漏らしていなかったと知り刹那安堵したが、似たようなものではないかと思い直す。
しかも一度経験してしまえば、癖のように潮を噴くようになると教えられ、耐えようのないショックを受けた。自分の体ではなくなったような気がして戸惑ってしまう。
凌駕は不意打ちでキスをした。舌を絡め、息苦しいほど濃厚なキスを。
「俺の好きな体に作り替えられたということだ」
冗談めいて言っても、凌駕の吐く息が熱い。
そろそろ凌駕も絶頂を迎える。
喋らなくなった凌駕は律動を早め、強く腰を打ちつけた。キスで気を抜いてしまっていた陽菜は、突然の刺激に腰を戦慄かせる。
「あっ、ぁん……」
「陽菜、俺のことも名前で呼んでくれないか」
「そんな、今……言われても……ぁん……」
「今は先輩ではなく恋人だ。恋人として扱ってくれ」
「り……りょうが、さん。りょうがさん。んんっ、イく……〜〜〜っっ!!」
凌駕の名前を呼びながら、二人同時に果てた。
アルファの精が体内に放たれる。ラット状態に入っているアルファの吐精は長い。
凌駕はその間、繰り返し腰を痙攣させながら陽菜を抱きしめ、耳や首筋にキスを落としていく。
陽菜は力尽きてぐったりとベッドに身を沈め、されるがままを受け入れた。
「もう離れようとしないでくれ」懇願され、凌駕が心から陽菜を必要としてくれているのだと実感した。
吐精の終わった凌駕がずるりと男根を抜く。
「んっ」
少しの擦れでも反応してしまうほど、鋭敏な体になっていた。発情期中に自慰をしても、こんなに感じたりしない。性欲は強くないと思っていたのに、繋がりが解けた身体が寂しいと訴える。
もっと凌駕と触れ合っていたい。しかし凌駕のようにストレートに伝えるのはハードルが高い。
どうにか一言でも自分の気持ちを伝えたいが放心状態で頭が回らない。
何時間も求め合い、疲労が一気に押し寄せて来て、うつらうつらと意識を手放しかけた。
そのタイミングでお腹の音が豪快に鳴った。
考えてみれば、帰ってきてからご飯も食べずにセックスに溺れていた。
その上、何度も絶頂まで登り詰め、潮噴きまで経験してしまった。
お腹も空いたが喉の乾きも酷い。
「そういえば俺も空腹なのを思い出した」凌駕も病院へ行く前は緊張で食欲がなく、あまり食べていなかったらしい。
「とりあえず水分を取ってくるから、そのまま体を休めておくといい」
まだ完全にラット状態から抜けているわけでない凌駕が立ち上がり、キッチンへと行ってしまう。引き止めたくなるが、とにかく水分が欲しい。大人しく背中を見送り目を閉じた。
「凌駕……さん」言い慣れない名前で呼ぶのは面映ゆい。
ベッドで仰向けになり、下腹部に手を当て撫でた。 この中に凌駕の精液が注がれている。
身体は汗や精液、オメガの液でベタベタになっている。さっき出された精液が孔から流れ出ているのだろう。シーツとの隙間もびしょ濡れになっていた。
目を閉じ、この一週間を振り返る。
寂しかった。
黒川のおかげで気が紛れたものの、その前に濃厚な週末を過ごしていたせいで、一人の部屋で過ごす時間は孤独そのものだった。
ここに帰って来られたのは奇跡だと陽菜は思う。凌駕にとっては当然の流れだったとしても、陽菜には奇跡としか言いようがない。
布団を手繰り寄せ、抱きしめる。
凌駕の匂いは安心する。どんなアロマよりも効果覿面だ。
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