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第28話 語り合う②

 朝、目覚めた時に隣に愛おしい人がいる。  これだけで幸せだ。  せっかく腕枕をしてくれていたのに、陽菜はそこから外れ、凌駕の懐で丸くなって眠っていた。伸ばされたままの腕にそっと頭を乗せると、凌駕の寝顔を眺めて少し涙が出た。  凌駕と恋人になれて人生が百八十度変わった。  この温もりが一人じゃないと証明してくれている。無意識に陽菜を抱き寄せる腕が安心感を与えてくれる。長いまつ毛の一本一本を確認できる距離にいるのは、今は陽菜ただ一人だ。  整った唇の輪郭を見詰めていると、吸い寄せられるように口付けてしまった。その感触で凌駕が目を覚ます。 「おはよう、陽菜」  凌駕はキスで起こしてくれたことを喜んで、陽菜の額に口付けた。 「幸せな朝だ。ずっとこうしていたい」 「僕もです」  カーテンの外では雨が降っていたので、昨日の映画の続きを観て過ごすことに決めた。  食材も買い込んであるから外に出る必要はない。  凌駕はマンション内にあるジムへ行き、その間に陽菜は家事を済ませる。  本当に高槻に作っていた卵粥でいいのか迷ったが、凌駕のリクエストなのでそうした。材料の質が違うからか、いつもより美味しく感じる。  ジムから帰った凌駕と一緒に遅い朝ごはんを食べた。見た目は質素だがとても喜んでくれたが、それこそ手放して喜んでいいのか戸惑ってしまった。 「体に優しい味が陽菜らしい。毎日でも食べたい」  オーバーなほど褒めちぎり、片付けは凌駕がしてくれた。  雨足は強まっていくが、窓を滝のように流れ落ちる雨は、二人の世界に結界を張ってくれているようだ。どことなく距離が縮まり、ゆったりと時間が流れる。 『金曜日に陽菜に無茶をさせたから』と言って、土日の間に凌駕は陽菜を抱かなかった。  気にしなくていいと言いたかったが、月曜日からの仕事の忙しさを考えると気にしなくてはならない。  月曜日からは週末が嘘のように忙しかった。  息着く間もないとはこのこと……。それでも水曜日には啓介の店に顔を出せた。  陽菜と凌駕が並んで店に入ってきたため、啓介は目を瞠ったまましばし固まった。 「え、陽菜くん? 凌駕くんと……」 「うん、電話くれた時に言おうと思ったんだけど、直接報告したくて」 「そうだったんだね。おめでとう!! 良かったね、陽菜くん」  啓介は自分のことのように喜んでくれた。  啓介が店を閉めた後、黒川も呼び出して四人で食事に行った。黒川はようやく二人が収まるべき場所に収まったと知り、大きなため息を吐いた。 「本当さぁ、君らは分かりにくいんだよ! あぁぁぁ!! 良かったぁぁぁ!!」 「黒川さんは、凌駕さんから聞いて知っているとばかり思ってました」 「別にわざわざ連絡する義理もない」 「今回に限ってはあるだろう!!」  凌駕は黒川に散々お叱りを受けていたが、二人とも笑っている。  四人の時間はあっという間に過ぎていく。  黒川と啓介に見送られ、陽菜たちは凌駕のマンションへと帰った。ここが陽菜の帰る場所だと、凌駕は行動で示した。もう、陽菜のマンションへ行く素振りも見せない。  陽菜も少しずつ凌駕のマンションで住むのに慣れてくると、先に帰った時でも罪悪感なく過ごせるようになっていった。  どちらかが帰りが遅くなっても、確実に会えるという点で、殆ど同棲と言える生活はとても良かった。  ようやくお互いの仕事がひと段落した頃には、二週間以上過ぎていた。  後半月ほどで陽菜も発情期に入る。  凌駕にも話すと「匂いが濃くなっていたと思った」と顔を綻ばせた。  何となく陽菜の発情期が近づいているのを感じてはいたものの、多忙のため疲労が溜まっているだけかもしれないと様子を伺っていたのだと言った。  凌駕は陽菜を抱きしめ「何も心配はいらない。俺がいる」頭を撫でる。  初めて過ごす二人きりの発情期が、間もなく迫っていた。

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