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第33話 隔離病棟②
「番以外にフェロモンが……」
咲坂も、やはり引っかかる所は同じだ。しかし原因は調べないことには断定できない。
「陽菜くんはこのまま発情期に入るだろうし、検査もしないといけない。入院になるから、後ほど着替えを届けてくれないかな」
咲坂の頼みに、黒川が返事をした。
「望月のマンションにも着替えを置いているはずなので、預かってきます」
「では、どうぞ休んで行ってください。あれ、あなたは怪我をなさってるじゃないですか」
咲坂が高槻の傷に気付いた。
「かすり傷です」
「だとしても、バイ菌が入っては大変だ。この程度ならここで消毒しておけば大丈夫だし、手当てしよう」
「ありがとうございます。お願いします」
三人のやり取りを寝かされた診察台から眺めながら、ナースに鎮痛剤を打たれる。
体のあちこちに不快な痛みを感じていた。
「陽菜くんは、痛みが引いてくると眠気が来るだろうから、眠っている間に血液検査をさせてね」
穏やかな口調を崩さず咲坂が言う。
陽菜は素直に頷き、目を閉じる。咲坂の喋るリズムが心地よく、薬が効く前に陽菜は眠りについた。
深夜になり、目が覚めると黒川がベッドサイドに座っていた。
咲坂が抑制剤を打ってくれたのか、発情期にはまだ入っていない。
黒川は陽菜が起きたのに気付くと、凌駕から受け取った荷物を持って来たと言った。
「凌駕さんは……」
「会いたがっていたけど、陽菜ちゃんとの番がどうなっているのか、現状では分からない。だからオメガの病棟には入れてもらえないんだ」
申し訳なさそうに説明する。
「陽菜ちゃんを襲ったアルファも病院に搬送されたよ。今夜だけ病院に泊まって直ぐに退院だって。凌駕が打った注射が強すぎたみたいで、点滴を打ってるみたい」
「そう……ですか……」
陽菜が黒川の車内で目を覚ました事、落ち込んでいるものの意識も戻った事を凌駕にも伝えてくれたようだ。
「陽菜ちゃん……」静かな声で呼ばれ、黒川を見た。
「仕事、辞めんなよ。陽菜ちゃんに責任はない。誰も悪くない。凌駕だって陽菜ちゃんが帰ってくるの、待ってるから。また、次の発情期に改めて番になれば良い」
黒川は陽菜の髪を撫でながら話す。凌駕の落ち込みぶりも相当なものらしい。
陽菜よりも発情期を楽しみにしてくれていた。
きっと黒川の前ではポーカーフェイスを隠してはなかったのだろう。
「今は抑制剤が効いてるけど、効果が切れると発情期に入るだろうって、先生が。血液検査の結果も、とりあえず発情期が終わってから説明するって言ってたよ」
「分かりました」
「また俺と高槻くんに連絡くれる約束をしてるから、会いに来る。今は寝なよ」
はい、と返事をすると黒川は帰って行った。
凌駕に連絡したいが、陽菜も点滴を打たれていて身動きが取れない。仕方なく目を閉じた。
黒川は仕事を続けろと言ってくれけれど、現実的に考えて会社に相当な迷惑をかけている。ベータだと偽ったまま事件を起こしてしまった。もしも上層部から解雇を言い渡されればそれまでだ。
ぐるぐると考えが巡り始めると、眠気が覚めてしまいネガティブ思考に陥る。
このまま凌駕に会えなくなってしまうのではないかという不安を拭えないまま、発情期に入ってしまった。
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