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第54話 初対面②
「陽菜が突然不可解な行動に出るなんて、何か原因があるとしか思えなかった。黒川や高槻とは、まだ白瀬が陰で動いているんじゃないかと話していたんだ。解雇されてから、やつの素行は更に悪くなったと噂になっていたしね。でも、まさか子供がいるなんて想像もしてなかった」
脱帽した凌駕は改めて凌桜に向き合い「初めまして。望月凌駕です」と丁寧にお辞儀をした。
「東雲凌桜です。五歳です。あなたはリョウのお父さんですか? ママがね、パパはお仕事で遠くに行ってるから帰って来られないって。だからさみしい時もあるだろうけど、ごめんねって。でも、リョウは、ママもバァバもいるからさみくないって言ったんだ。でも、パパはもうリョウたちのところに帰って来られるの?」
「りょ、凌桜?」
何を言い出すのかと慌てて止めに入ったが、子供に罪はない。凌桜のお喋りは止まらない。
「だって、ママのほうがさみしそうだったでしょ。入院する時も、ずっと同じハンカチ握りしめてるって看護師さんが言ってた。きっとママが大好きな人だったんじゃないかって。リョウくん、誰か知ってる? って聞かれて、多分パパだよって教えてあげた。帰ってきたら、看護師さんにも会わせてあげるねって約束したんだ」
「そんな会話、初めて聞いたよ」
凌駕本人の前でそんな話をされて、冷や汗が止まらない。ハンカチは捨てられずに、ボロボロになった今でも持ち歩いている。それをちゃんと見ていたことにも驚いているが、凌桜がそこまで深く陽菜の心情を読み取っているとも思っていなかった。
流石の凌駕でさえ、理解するのに苦労している。久しぶりに会ったと思えば自分との子供が既に五歳になってる時点ですぐに理解しろというのは難儀な話だ。
それでも凌桜に手を伸ばし「こっちへ来て」柔らかい表情を浮かべた。凌桜はその手をとり、凌駕の隣に座った。
「すまない。仕事に気を取られ過ぎて、凌桜が産まれてから少しも一緒にいてやれなかった。ちっとも父親らしくなかったと反省している。それでも、凌桜は俺がここに帰って来るのを許してくれるか?」
「うん、いいよ。だってママが喜ぶでしょ。ママ、こう見えて寂しがりやだから、リョウがいない時、心配なんだ。でも、もうママを寂しくさせないって約束してくれる?」
「あぁ、勿論だ。絶対に、ママを一人になんかさせない。今までママを守ってくれてありがとう」
「うん!! ママも、良かったね。パパ、帰って来られるって!!」
「え、あの……それは……」
いつの間にか凌駕と凌桜の間で話がまとまり、凌駕と陽菜が復縁することになっている。今度は陽菜だけが蚊帳の外だ。二人は瞬く間に仲良くなっていて、心の葛藤とか、警戒だとか、もっと色んな感情に悩まされたりはしないのか。それとも、会ってなくても親子はなんとなく勘で分かるというのは本当なのか。
凌桜は確かに社交的な性格ではあるが、大人に対しては割と厳しく見定める変な特技がある。それは陽菜がしょっちゅう病院へ同行させているうちに気付いたことだが、性格の良い看護師や先生と、裏がある人とを肌で感じて態度をピシャリと変えるのだ。
「あの人はママに近付けないで」などと平気で口に出すものだから、陽菜はよく頭を下げていたものだ。
そんな凌桜がこんなにも打ち解けていて、父親だと認めるなんて、陽菜からすれば驚いてはいるものの、妙に納得してしまう部分はある。
だからと言って、陽菜との復縁までさせるとはどんな子供なのだ。
今まで一人で悩んできたのが一瞬でこれだ。
凌駕らしいし、凌桜らしい。やはり二人は、紛れもない親子なのだと思い知らされる。
「陽菜」今度はこちらに手を伸ばす。リアクションを躊躇っていると、凌駕と凌桜はそっくりの笑顔で微笑んだ。
おずおずと手を伸ばす。凌駕がそっと陽菜の手を掬い取り、凌桜は満面の笑みで二人の手の上から被せた。
「陽菜の家族になっても良いだろうか」
「……はい」
凌駕との展開は、いつだって旋風の如くだ。陽菜の不安も戸惑いも何もかも引っ括めて全て奪い去ってしまう。
「さぁさ、丁度お祝いのケーキがあるわよ」
タイミングを測って、母がケーキとお茶を出してくれた。
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