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第58話 五年ぶりの②
「俺も、もっと引っ付いていたいしな」
繋がりは解かないよう、慎重に体勢を変える。胡座をかき、その上に陽菜を跨らせる。
自分の体重で、より体内に圧がかかり、陽菜は「んっ」身を強ばらせながら凌駕にしがみついた。
向き合って目が合うと、凌駕が口を尖らせ顔を寄せる。
陽菜は少し可笑しくなって笑ってしまった。
「何故笑う。ほら、ん……」
「だって、凌駕さんが可愛い」
あはは、と声が漏れる。けれど笑った弾みで凌駕の男根を締め付けてしまい、甘い吐息が笑い声に混じった。
「ほら、陽菜。油断するから」
「でも今ので、凌駕さんのがもっと太くなりましたよ」
「陽菜に食われてる気がする」
「そんなこと出来るわけありません」
「もっと奥まで咥えても良いんだぞ、ほら」
「あっ、やっ……ぁぁ、ぁん……凌駕さんのいじわる」
「陽菜が可愛すぎて好きすぎて、虐めたくなる」
子供みたいなことを言いながら、顔中にキスを落とす。
陽菜も凌駕の首に腕を回し、背中で脚を絡め、身体を癒着させる。
さっきまでとは打って変わってゆったりとした一時を過ごす。他愛ない会話を交わしながら、目が合えばキスをする。腰は流れるままに揺れ、甘い痺れを堪能している。
凌駕との今までを考えても、こんなにもしっとりと抱き合うのは初めてだ。陽菜はこんな時間も好きだと思った。凌駕の新しい一面に触れた気がした。
「凌駕さん、帰らないで」
「今日はこっちに泊まるつもりで、ホテルを取ってある。それをキャンセルしてここで過ごそう」
「本当に?」
「俺だって、この幸せから覚めたくないからな」
母と凌桜が帰ってくるギリギリまでベッドの上で愉しんだ二人は、大急ぎでシーツを取り替え服を着る。身なりを整え間一髪でリビングのソファーに座り直した。
「ママー、パパー、ただいま」
「凌桜、おかえり。お母さんも、ありがとう。急に大変だったね」
「そんな事ないわ。楽しかったよねぇ、凌桜?」
「うん! リョウねぇ、いっぱい歌ってきたよ」
歌った楽曲のタイトルを並べる。お友達はあの歌と歌ったとか、幼稚園で習った歌がなかったとか、お喋りは尽きない。
凌駕はそんな事より『パパ』と呼ばれたことに衝撃を受けていた。
「凌駕さん、どうかしました?」小声で訊くと、目頭を押さえ「凌桜、もう一度パパと呼んでみてくれないか」なんて言い出す。
凌桜はよく分からないまま「パパ!」と返した。
身を捩らせて喜びを噛み締める凌駕を見て、凌桜までもが笑い出した。
「パパって変なの」
「あぁ、そうだな。凌桜に会えて、感極まっているんだ」
凌桜を抱きしめる。凌桜も照れくさいのか、少し棒立ちになっていたが、凌駕の膝に座り凭れかかった。
「ねぇ、パパ。今日一緒に寝たい」
凌桜から甘えるのは珍しい。成長するほど、陽菜を気遣って我儘も言わなくなっていた。
我慢させていたんだなと、反省する。
「いいな。俺も今、凌桜と一緒に寝たいと思ってたところだ」
凌駕も凌桜に頬を擦り寄せる。
「じゃあ、和室に布団を敷いて三人で並んで寝る?」
口を挟んだのは母だった。
「バァバ、良いの!?」
「そりゃ良いに決まってるじゃない。バァバもせっかく凌駕さんに会えたから、ゆっくりしていって欲しいもの」
母は手際よく料理を進めながら、「凌駕さんも、それで構わない?」と訊ねる。
「是非、そうさせてもらいます」
凌駕の返事を聞いて、凌桜はリビングをジャンプで駆け巡る。気を良くした凌桜は、「お風呂も一緒に入りたい」と言い出した。陽菜が流石に狭くて無理だと言っても聞かないので、ご飯の後は急遽近くの銭湯へと出向いた。
『なんでもない日』が、特別な記念日になっていく。それも凌駕がいるからこそ何気ない一日が特別になるのだと気付く。銭湯だって和室で寝るのだって、別段変わった行事でもなんでもない。そこに凌駕が加わるだけで、こんなにも価値が上がる。
陽菜と凌駕の間から、凌桜が二人と手を繋ぐ。
夜道をこうして歩いているだけでも、星がいつもより輝いて見えた。
今、自分達の真ん中で眠っている凌桜の寝顔を眺めながら小声で話す。
「家族っていいな。こんなにも温かい」
凌駕が凌桜の額にそっと口付け「寝顔までそっくりだ」と、微笑んだ。
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