59 / 61

第60話 再会パーティー②

 とても幸せそうな二人に、思わず顔が綻ぶ。  啓介が先に陽菜に気付いてくれ、手を振ってくれた。 「黒川さん、啓介くん、色々と心配と迷惑をかけてすみませんでした」  深々と頭を下げる。特に黒川のことは大いに振り回してしまった。  黒川たちは陽菜に頭を上げてと言い、近くの席に着く。 「あの時、陽菜ちゃんが妊娠してるなんて考えもしてなくて。俺こそサポートしてあげられなくてごめんね。一人で悩むの、辛かったでしょ」  相変わらず黒川は優しい。今住んでる賃貸物件も、実は黒川グループの一部だったと、凌駕から聞いた。何となく繋がっていたんだなと、世間の狭さを感じた。 「あの頃の僕は甘えてばかりでした。お腹の子供を育てていかなきゃいけないのに、自分が自立もしないでどうするんだって。連絡先の一切を変えたのは、自分への戒めでした。会えば甘えたくなってしまうから」 「甘えられる環境にいるんだから、甘えれば良かったのに」黒川は言うが、「自立したい気持ちは分かる」とその隣で啓介は言う。  その啓介のお腹はふっくらとしている。 「撫でてもいい?」  陽菜が腕を伸ばし、柔らかいブラウスの上からそっと手を添える。 「番になったんですよね?」  黒川に訊ねると、柄にもなく照れくさそうに指で頬を掻く。 「あのさ、多分なんだけど……」話し始めた黒川は少し気まずそうだ。 「俺がスタディングしたキッカケ、多分、陽菜ちゃんなんだよね」 「僕ですか?」  こくりと黒川が頷く。 「一番最初に出会った時。俺が先に陽菜ちゃんのこと襲ったじゃん? あの後からなんだ。匂うはずのない啓介の匂いがし始めたの。最初は啓介が香水でも付け始めたのかと思ったんだけど、職業柄生地に匂いが付かないよう香りが強いのは避ける。啓介に至っては香水なんて付けていなかった。なのに徐々に匂いが濃くなって流石にこれは……って思って『香水、濃すぎるよ』って言ったんだ。そうしたら付けてないっていうから……」 「僕は直ぐにフェロモンが届いてるって分かったけど、翔ちゃんはベータだし半信半疑たんだよね」 「突然変異なんて聞いた事ないし、じゃあ何がキッカケでオメガの匂いが分かるようになったんだろうって辿ってみると、陽菜ちゃんとの一件しか考えられなくて。  家族は全員アルファだから、素質は持ってて、あの瞬間、俺のアルファ性が呼び起こされたってイメージかな。まぁ、啓介にはこっぴどく怒られたけど。あの頃の俺はセックスに対して楽観的だったからね」 「本当にサイテーだよ! あの頃の翔ちゃん、来るもの拒まずで嫌だったんだからね」 「ごめんて。啓介への気持ち拗らせて躍起になってだけなんだ」  やはり黒川は大学生の頃から啓介が好きだったらしい。でもオメガと知り、自分では番になれないからと一度は諦めた。しかし陽菜の苦しみながらも前へ進もうとする姿を見ているうちに、やっぱり自分も諦めたくないと思ったらしい。  啓介へ告白したのは、陽菜が引っ越した辺りだったと振り返る。 「僕は翔ちゃんがずっと好きだったから、アルファじゃなくても良かったんだけど、オメガじゃ迷惑かなって思って言えなかった。二人とも、肝心なところで臆病なんだよね」  啓介が笑う。告白を受け入れたあとから、発情期を一緒に過ごすようになると、黒川のアルファ化は益々進んで行った。  何度か頸も噛んだが番になれたのは、つい昨年の話だという。 「自分がアルファ化してるって実感は日々強くなってたから、諦めようとは思わなかった」 「僕も、番になれるなら翔ちゃんじゃきゃ嫌だって思ってた」  二人の会話は微笑ましく、仲睦まじい姿はいつまでも見ていたい。  黒川と啓介は陽菜を見てニッコリと笑った。 「スーツ、似合ってて良かった」 「え、これもしかして、あの?」 「そうそう。陽菜くんに渡しそびれてたスーツ」 「そうだったんだ。ありがとう。凄く、素敵」  昔、高槻が好んで着てたシックなチェックのスーツに似ている。ネクタイも二人で選んでくれたらしい。 「次は凌駕がデザインするって言って張り切ってるよ。秘書になるんでしょ? 仕事仲間としても、これからもよろしくね、陽菜ちゃん」  秘書の話が本気だったとは今知った。でも、陽菜もまた働きたいと思っていた。凌駕の巻き起こす旋風の中に、これからも前線で立っていたい。  黒川や啓介と握手を交わす。  高槻が「俺もな」と言って手を差し出した。 「これからは同士だ、陽菜」 「はい、高槻さん」高槻とも、握手を交わした。  パーティーを存分に楽しんだ凌桜は、凌駕のマンションに帰るとあまりの広さに走り回っていたが、風呂に入った後は一気に疲れが押し寄せてきたらしく、アッサリと寝てしまった。  凌桜をベッドに寝かせ、自分達はリビングで抱き合った。 「今度こそ、発情期を一緒に過ごそう、陽菜」 「僕も、絶対に凌駕さんと過ごしたいです」  何度も体位を変え、繋がりながら頸を啄む。意識は二ヶ月後の発情期に注ぎ込まれた。 「早めに迎えに行く。それで、発情期が明けたら、みんなで一緒に住もう。もう、離れなくてもいいように」  今度こそ明け方まで存分に抱かれ、その後そっと凌桜の隣に入り込んで三人で眠った。  ♦︎♦︎♦︎  二ヶ月後、凌駕は発情期前の陽菜を迎えに来た。 「凌桜は、ママがいない間、バァバを守っててよ?」  凌駕からのミッションに元気に「任せといて!」と返事をする。 「パパは、ママを守ってね」  小指を絡ませ約束する。 「やっと、念願の二人きりの発情期だ」  興奮を抑えるのに必死な様子の凌駕だった。

ともだちにシェアしよう!