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五章・無月に咲く花⑪

 朝、目を覚ますと泉の水を借りて水浴びを行う。ルーナディアは手記に書かれていた通り、一夜を過ぎて枯れ果ててしまっていた。水の中に浮かぶ茶色くなったルーナディアを手で掬う。 「僕に力を貸してくれよ」  持ち帰ったらすぐに研究が始まる。薬の完成がどれほどかかったとしても諦めるつもりはない。  はっきりとオライオンへの気持ちを自覚したせいか、エリクサーの調合への熱意は高まるばかりだ。  土を踏みしめる音が聞こえてきて振り返る。  オライオンが起きてきたのかこちらへと近づいてきていた。泉から上半身だけを出しているルキノは笑みを浮かべる。 「おはよう」  立ち止まったオライオンは目元を赤く染めながらルキノを凝視するだけで、一向に挨拶を返してくれない。  疑問に思い首を傾げた瞬間、オライオンが唐突に服のまま泉の中へと入ってきた。驚いて動けないでいると、目の前に来た彼がキスをしてきた。 「オライオンっ、服が濡れてっ」  風邪をひいてしまうと思い止めようとするも、気持ちよさには抗えない。服越しにオライオンの盛り上がった股間が腹へと擦りつけられていることに気が付いた。  明らかにルキノの素肌を見て興奮している。そのことに気づいたルキノは、白い肌を桃色に染め上げた。心臓がうるさいほどに高鳴っている。昨夜期待してしまったことが現実になったような感覚だった。 『君に触れたい』  紙に書かれた欲望を瞳に映し、受け入れる。 「触れるだけなら……」  本当は最後まで教えてほしい。けれどそれは許されない。それなら欠片でいいから、オライオンとの思い出が欲しかった。  ルキノを水の中から抱き上げたオライオンは、泉から出ると小屋の中へと向かう。熱風が全身を覆い、一瞬で濡れた全身が乾いた。オライオンが魔法を使ってくれたのだとわかる。  ベッドへルキノを寝かせたオライオンが早急に服を脱ぎ捨てる。鍛え抜かれて割れている腹筋から目が逸らせない。 「……やばい……」  格好良すぎてルキノも欲情してしまう。  桜色の乳首へと舌が這わされる。初めはなにも感じなかったが、徐々に切なくなるような快感を感じ取れるようになってきた。舌先で先端を弄ばれる。空いている右乳首も指の腹で捏ねられて、可愛らしい甘声が飛び出す。 「んっ、ゃ……」  オライオンのペニスは欲望に忠実に従い固くなっている。その巨根の亀頭がルキノのペニスの先端と触れ合い、先走りが交じり合う。大きな手がペニスを同時に扱き始める。  ルキノはその手の動きに翻弄されて腰を浮かす。 「オライオン、これ気持ちいっ」  素直すぎるルキノの言葉にオライオンが表情をふやけさせた。乳首から離れた唇が、再びルキノの唇を飲み込む。 「はあ、あん、んん!」  荒い吐息が交じり合う。もっと深く繋がりたい。欲だけが膨らんでいく。もしも立場が違ったならオライオンと共に生きていく未来が存在したのだろうか。  そんなもしもは、結局は願望に過ぎない。ルキノの吐息とオライオンの荒らしい呼吸が重なり小屋の中を満たす。この瞬間だけは、二人の心は正真正銘共存できる。  くちゅくちゅと鳴り響く水音がどちらの物なのかはわからない。どちらの物でも構わなかった。  オライオンが自分に興奮してくれている事実が嬉しい。もっと求めてほしい。ルキノも求めるようにオライオンの首に腕を回す。 「もっと触って」  強請ると、指先がルキノの亀頭の先端を押してきた。強い刺激に背をのけぞらせる。微かに白濁液がルキノのペニスから洩れている。それでも手を止めてはくれない。  体を起こし、背を向ける形でオライオンの膝に乗せられる。後ろからオライオンのペニスが蜜穴に擦れて腹奥が疼く。  後ろからペニスを扱かれる。目に見えるため羞恥心が増す。 『自分で乳首に触ってごらん』  浮遊する紙に綴られた文字を見て首を振る。恥ずかしくて出来るわけがない。拒否すると、オライオンの手の動きが緩やかになる。もっと強く握ってほしい。 「意地悪しないでッ」  抗議してみるも手の動きは緩やかなままだ。  強い快感を求めて渋々乳首へと触れる。そうすると手の動きが激しくなり、全身が強い快感を拾い始めた。 「ああ!やぁ!イクっ」  叫んだ瞬間一際強く擦られて、ルキノは床に向かって勢いよく欲を吐き出してしまう。長く続く射精に息を荒くさせていると、治まらないうちに押し倒されてしまった。  オライオンも限界なのか必死に理性と戦っているようだった。 「口でしたい……」  大胆なことを言っている気がする。けれどしてあげたいと思える。オライオンが切ない表情を浮かべながらルキノの顔の前にペニスを差し出してきた。咥えると、小さな口がペニスで埋め尽くされる。歯を当てないようにしながら必死に舌を動かす。  オライオンもゆっくりと腰を動かし、微かにくぐもった呻きを上げていた。その声を耳に入れるたびに愛おしさが増す。  ジュっと音を立てながら吸い付くと、オライオンが体を震わす。そのすぐあと喉奥にペニスが押し込まれて、苦しさに生理的な涙が流れ落ちた。 「ンぐっ、んむ」  一瞬見えたオライオンの口元が「ごめん」と囁いた瞬間、勢いよく最奥へと欲が吐き出される。鼻水や涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらルキノはオライオンを受け止める。 「げほっ、んッ」  ペニスが引き抜かれると、横を向いて咳き込むルキノの口内から白濁が流れ落ちた。抱き起こしてくれたオライオンが顔をシーツで拭ってくれる。 「はあ、けほ……ん、オライオン気持ちよかった?」  涙目になりながら尋ねる。ルキノを勢いよく抱きしめたオライオンが頬にキスをしてくれる。それだけでオライオンの気持ちが伝わってきた。  行為の後には物悲しさが滲んでいる。巻き戻して先程の幸せな時間に浸り直したい。そんなふうに永遠の幸せをオライオンと共有したかった。けれど幸せな時間には終わりが在る。 「僕は……」  その先の言葉が出てこなかった。  オライオンの全てが欲しい。自分の全てを奪い去ってほしかった。けれどそんなことをしてしまえば、オライオンを治す機会を失ってしまう。結局、気持ちだけが先行してい く。  それでも── 「やっぱり僕は君の傍に居る時が一番自分らしくいられるんだ」  変えられない思いがある。  諦めたくないものを思い浮かべればきりがない。その全てを手にするための努力をできていただろうか?  そう疑問を感じた瞬間、ルキノはその努力をしたいと思った。これまで嫌というほどに努力を積み重ねてきた。今度もそうやって進んでいきたい。  気持ちが固まっていく。きっとオライオンもその気持ちに応えてくれるはずだと確信していた。

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