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六章・賭け試合の末に③
「逃がすと思うかい?」
風の魔法だと気がついた瞬間には、エイリークの腕の中に戻されてしまっていた。横向きに抱きかかえられて逃げられなくなってしまう。
暴れようとすると、土魔法でできた手錠で手足を拘束されてしまい身動きを取れなくされてしまう。
「離してください!」
「暴れないで」
「エイリーク様離して!ッ、オライオンっ」
「この状況で他の男の名を呼ぶなんて悪い子だね」
額を指先で撫でられる。その時だった。ルキノを拘束していた手錠が突然現れた水によって包み込まれると、一瞬で消えてしまう。自由になったルキノは再びエイリークから逃れようと、全身をばたつかせた。
エイリークが微かに舌打ちをする。
必死に暴れていたルキノは、研究室に飛び込んできたオライオンの姿を視界に映して安堵に包まれた。
水がルキノの全身を覆いエイリークから助け出してくれる。オライオンの腕の中に収まったルキノは、安心感から微かに笑みをこぼす。悔しそうに歯を食いしばるエイリークがオライオンを強く睨み付けている。
あんな風に取り乱すエイリークの姿をルキノは見たことがなかった。
「そこまでだ」
再び魔法の打ち合いが始まろうとしたとき、落ち着いた声音が二人を制止する。振り返るとレオナルドがローディンと共に研究室へと入ってきたのが確認できた。驚きに目を見開く。
「伯爵……。それにヒリング魔法薬店の店主がなぜここにいるのです?」
エイリークが訝しむような視線を二人へと向ける。一歩前へと出たレオナルドが眉間に深いシワを寄せた。その姿はまるでローディンを守っているかのようにも見える。そのレオナルドの行動でルキノはローディンの正体を察してしまう。
ローディンは以前大切な人を魔力過剰障害で失くしたと話していた。魔力過剰障害は決して症例が多い病ではない。そしてルキノは魔力過剰障害で命を落とした女性の存在に思い当たりがあった。
「口を慎め。この方は先代国王陛下であらせられるぞ」
「先代国王陛下?そんなはずが……まさか隠居されて薬屋を?」
事実を知ってもルキノは驚きはしなかった。そしてローディンにならエリクサーを預けられると思った自身の勘が正しかったことを実感する。
明らかに動揺しているエイリークをレオナルドがじっと睨みつけている。かなり怒っているようだ。オライオンも同じように驚いているが、彼もローディンの正体については疑いを持っていたはず。
「君が騎士団長に任命されたのは五年前だったね。その頃には私はすでに隠居していたから知らないのも無理はない」
先代王妃様が魔力過剰障害で亡くなられていることは広く周知されている。ルーナディアのことを知っていたことからも、先代国王陛下というのは本当の事だろう。それに厳格なレオナルドが付き従っている時点で疑う余地はない。
「どうせ争うのなら公式の場で行ってはどうかな」
「……それはどういう意味でしょうか?」
鋭い声音でローディンへ尋ねるエイリーク。いつも礼儀正しいエイリークらしくない言動だ。オライオンから降ろしてもらったルキノも、ローディンの言葉に耳を傾ける。
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