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六章・賭け試合の末に⑧

「ルキノ君らしくていいんじゃないかな。彼もその思いにきっと応えてくれる」 「はい。僕はオライオンのことを信じています」  額に汗を流しながらエイリークと対峙しているオライオンを見つめ続ける。心配は尽きない。心の中で名前を叫び、何度も負けないで!と伝え続けていた。  オライオンとエイリークは荒い息を吐き出しながら魔法を繰り出し続けている。結局は耐久戦になってしまった。体力が尽きたほうが相手に飲み込まれてしまうだろう。 「俺はルキノを諦められない。だからオライオンくん、そろそろ降参してくれないかな」 「それは俺も同じです。ルキノのことは俺が幸せにしたい」  エイリークとオライオンが最後の大技を放った。  火と水で象られた大きなウルフ()と、風と土から生まれたタイガー()がぶつかり合う。その瞬間、暴風が競技場内に吹き荒れ、防御壁を貫通して天井にぶつかった。砂嵐が起こり、どうなってしまったのかわからない。  ゆっくりとモヤが消えていく。 「オライオン……エイリーク様……」  ボロボロの姿で仁王立ちしている二人が視界に映った。お互いに魔力は底を尽きているはず。危なげな足取りで二人が距離を詰めていく。オライオンがエイリークの頬を殴ると、エイリークも負けじと殴り返す。  痛々しい姿に目を逸らしたくなってしまう。けれどルキノだけは最後まで見届けなければならない。それがルキノの責任だから。 「っ、オライオン!」 「エイリークッ」  お互いの拳がほぼ同時に相手の頬へと向かって飛んで行く。先に相手に届いたのはオライオンの方だった。殴られたエイリークは、そのまま地面に尻餅をつき歯を食いしばる。口内から微かに血が流れていた。  オライオンがエイリークを見下ろしている。立とうとするも限界なのかエイリークは立つことができなかった。レオナルドがすかさず二人の間に飛び込む。 「二人ともよくやった。勝者はオライオン・ヴェイル」  レオナルドの宣言が聞こえてきた。  ルキノは大きな瞳を潤ませながら、競技場に立つオライオンを見つめる。 「勝った……オライオンが勝ったんだ……」  ズルリと体から力が抜ける。その場にヘタリこんだルキノは、じわじわと湧き上がってくる喜びを噛み締めながら涙を流した。  エイリークがレオナルドの肩を借りて立ち上がる。悔しそうな表情には彼の本気が滲んでいた。 「……悔しいな……でも、ルキノは君の前だといつも笑顔なんだ。俺はルキノの笑顔を見ていたかった。だから、絶対にあの子を幸せにしてあげてほしい」 「約束します。俺はルキノのことを一生幸せでいられるように努力し続けます」 「……頼んだよ」  エイリークが手を差し出す。その手を握り返したオライオンは、力強く頷いてみせた。皆が見守る中、オライオンがルキノの方へと近づいてくる。立ち上がったルキノも、オライオンの方へと向かう。  歩みが早くなっていく。最後には全速力で駆け出していた。オライオンに抱きつくと、力強く受け止めてくれる。ボロボロの姿でもオライオンは格好良くて綺麗だ。 「ありがとうっ。本当に無事でよかった」 「少しヒヤッとしたけど、俺は平気だよ。ルキノを失うことのほうが怖い」  抱きしめられて、額に唇が寄せられる。全員が見ている。けれど今は羞恥心よりも喜びのほうが勝っていた。  これから先、ルキノは永遠にオライオンと共に生きていける。全身が喜びに震えていた。 「俺達が居るのを忘れないでくれないかな」  エイリークが呆れ声を出す。オライオンは見せつけるように更にルキノを抱き寄せて、唇へとキスをしてきた。流石のルキノも顔を赤くさせてしまう。 「ば、ばか!」  胸元を叩くと、痛いのかオライオンが眉を寄せた。その様子に次は慌ててしまう。よく見なくともオライオンもエイリークも傷だらけだ。早く治療をしてやらなければならない。  浮かれていたルキノは反省すると、二人の治療のためにヒリング魔法薬店へ戻ることにした。

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