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七章・君の声を聞かせて

ルキノはオライオンと共にセイン伯爵家でレオナルドと対峙していた。 今後のことを話し合うための時間を設けたいと提案したのはルキノだった。厳しい表情のレオナルドが二人のことを鋭い眼光で見つめている。 「オライオン君は男爵家の長男だったな。ルキノと結婚したら男爵家はどうするつもりだ」 「元々男爵家は弟が継ぐ予定でした。ですから俺は伯爵家に籍を置くつもりです」 「つまり、君が伯爵家を継ぐと?」 「いいえ。伯爵家の時期当主の座に適任なのはルキノだと考えています。伯爵もそうお考えなのではないですか?」  オライオンの言葉にルキノは息を呑んだ。確かにオライオンが婿養子という形で伯爵家に嫁いでくればルキノは伯爵家に籍を置き続けられる。レオナルドの瞳がウィンドホーク(風鷹)のように鋭さを増した。まるで見定めるような視線が胃に突き刺さる。 「ルキノはどう思う?」  レオナルドの視線がルキノへと注がれる。今までなら曖昧な返事をすることしかできなかった。けれど今ならはっきりと答えることができる。  どれだけ拒否されても、すれ違ったとしても、話し合いお互いの思い受け入れ合うことで歩みを共にすることができる。それを学んだルキノに迷いはない。 「僕はセイン伯爵家を継ぎます。御義父様のように立派な伯爵家当主として民を守っていきたい」 「薬草学者の道はどうする」  気づかれていたことに今更驚きはしなかった。ローディンにも伝えた我儘を次はレオナルドへ伝えるときがきた。きっと怒られるだろう、甘い考えだと言われるはずだ。それでもルキノは諦めたくない。  薬草に出会い、心を踊らせる瞬間が好きだから。 「薬草学者になることも諦めるつもりはありません。両立は難しくても、やり遂げてみせます」 「甘い考えだな」  予想はしていたものの、はっきりと言われてしまうと怯んでしまう。けれどオライオンがルキノの肩に手を回して、励ましてくれたからうつむかなくてすんだ。 「俺が支えます」 「伯爵家当主はルキノですが、俺も領地経営に携わらせてください。きっと役に立つはずです」 「引く手数多の君になら選択肢はいくらでも存在する。騎士団に入るつもりはないのか?」 「あそこは俺には合わなさそうですから。それにルキノが支えてくれたように、今度は俺がルキノを支えたいんです」  意志の強いはっきりとした声音が心の奥に飛び込んでくる。それを受け止めて心の中で包み込んだ瞬間、ルキノはますますオライオンのことを好きになる。  レオナルドは数秒の沈黙のあとに一度頷いてから「好きにしろ」と言葉を返してくれた。その言葉は不器用なレオナルからの了承の返事だと知っている。ルキノとオライオンは目を合わせて溢れるように笑みを浮かべ合う。 「浮かれるな。お前達には私直々に領地教育を叩き込む。弱音は許さないぞ」  厳格な態度は変わらない。けれど前よりも確実にレオナルドとの距離感は近くなっている。ルキノはそれがなによりも嬉しかった。  オライオンも喜ぶルキノの表情を穏やかな表情を浮かべながらも見守ってくれていた。

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