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第2話

彼は、犬飼朔也と名乗った。 「じゃあ、サクって呼ぶね。軍事大国のイギア帝国と、新興国のイクス王国に挟まれている小国なんだ。イギア帝国との国境にある北の砦を守るという要職を任命された。というのはうわべだけの理由で、身分の低い侍女が産んだ第四王子は邪魔者でしかない。だから辺境の地に飛ばされる」 「辺境の地ですか?」 「うん。サクがいれば寂しくない」 「僕みたいなものにそんな大役」 「サク、僕みたいなは禁句。自分を卑下しないで。サクはサクでしょう」 「アルドリック殿下」 「殿下はいらない。アルと呼んで。私のほうが年下だし」 「そういうわけにはいきません。アル様とお呼びします」 ようやく笑ってくれたサク。笑顔がかわいくて思わず思わず抱きつこうとしたら、 「アル殿下」 護衛のユフに止められた。ユフは乳兄弟で気の許せる唯一の臣下で気心の知れた友でもある。せっかくのチャンスだったのに。ユフを睨むと、 「これからいくらでもチャンスはあります。ここからサク様を連れ出すのが先です」 サクを見世物にしたくない。手枷と足枷をすぐに外すように命じ、サクの肩にマントをそっと羽織らせて馬車に乗せた。 わずかな護衛しか許されず。サクとユフと三人で辺境の地へと向かう道中。サクは朝晩の祈りをかかさなかった。盗賊にも襲われず、天候にも恵まれ、お陰で四日も早く辺境の地へと着いた。 サクは次から次に奇跡を起こした。

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