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第29話
「月を眺めて何を考えている?」
後ろからそっと抱き締められた。
「ア、アルさま」
「セドリック殿下が恋しくなった?」
「いえ」
慌てて首を横に振った。
「サクは思っていることがすぐ表情に出るから分かりやすい。嘘をつかなくていいよ、どうせサクにとって私は主君というより年の離れた弟みたいな存在だから。でもセドリック殿下はサクと同い年だし話しも合うし変に気を遣わなくてもいいし。それにカッコいいし。剣の腕も立つし。見てて分かるよ。サクとお似合いだってことが」
アルさまの手がかすかに震えていた。
「婚約は破棄した。好きでもない人と一生を共にするなんて私には出来ない。結婚するなら好きな人とがいい。サク、私はきみが好きだ」
ぎゅっと力強く抱き締められた。心拍数が一気に跳ね上がった。
「アルさま、僕は……」
「婚姻届にはサクがセドリック殿下に嫁ぐ条件として私も一緒についていくことと書かれている」
「え?」耳を疑った。
「スフォルたちに聞いてみるがいい。私も帝国の言葉は挨拶程度しか話せないからセドリック殿下に教えてもらうまで分からなかった」
何も疑わず言われるままに婚姻届にサインしたときのことを思い出し、あの時なんで聞かなかったのだろうと後悔した。
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