32 / 83

第32話

「サクさまはセドリック殿下が選んだ人。敬意を払うのは当然だろ?」 「サクさまが殿下に見合うだけの価値があるか、見極めに来たのだろう?」 「さぁ、どうかな」 ただならぬ雰囲気に扉を開けられずにいたら、 「入らないですか?」 ゼオリクさんに声を掛けられた。 「えっと、その……」 「せっかく淹れた紅茶が冷めてしまいますよ」 ワゴンを押しながらおっかなびっくり中に入ると、 「御飯がとても美味しかったと騎士たちがとても喜んでいました」 「ジュリアン・グレーンスト―ンさま。たいしたものを準備することが出来なくて申し訳ありません」 「そんなことはありませんよ。サクさまが丹精を込めて作ってくれた心尽くしの手料理、私も食べたかったです。明日の朝のご飯が今から楽しみです。サクさま、私のことはどうぞジュリアンとお呼び下さい」 「そう言われましても……」 チラッとゼオリクさんを見ると、 「戸惑うのも無理はありませんが、サクさまは殿下の后になったのです。私たちはサクさまより年上ですが、臣下です。慣れていただかないと」 にっこりと微笑んだ。 「遅くにごめんなさいね。サクさま、あたしらで何かお手伝いすることはあるかい?」 町に残ってくれた女性たちが訪ねてきた。 鍛冶屋のピエ―ルさんの妻のマリーさんに、よろずやのカ―タ―さんの妻のエマさんに、飲み屋を切り盛りするアグネスさんとジョリーさん姉妹だ。女性たちの代表として来てくれた。

ともだちにシェアしよう!