38 / 83

第38話

「アルドリック殿下には返しても返しきれないくらいの恩があります。そしてサクさまは殿下の大切なひとです。殿下とサクさまのためならこの命など惜しくはありません」 「復讐は考えたことはないんですか?」 「ないと言えば嘘になります。親の仇であるクリュエル子爵をこの手で刺すかも知れません」 「わざわざご自分の手を汚さずともクリュエル子爵に恨みを持つ者は大勢いますよ」 チラッと従者を見るジュリアンさん。 「彼もそう。結婚間近だった妹の嫁入り道具と花嫁衣装を買うために帝国に出稼ぎに来ていたそうです。二年ぶりに故郷に帰ったら、家族全員不敬罪で処刑されていた。クリュエル子爵は彼を捕え貯めた金を没収し牢屋に入れようとしたら、雷が塔に落ちて混乱に乗じて川に飛び込み逃げ出すことができた。そうでしたよね?」 「はい、おっしゃる通りです」 従者が短く答えた。 「子爵の傍若無人で非道な振る舞いを知っていてもみな見て見ぬふり。触らぬ神に祟りなしです。誰も子爵とは関り合いを持ちたくはありませんからね。陛下は義弟である子爵に詰問することはなかった。それどころか王族の静養先となっている豊かな土地へ領地替えをしました。陛下は五歳年上のイゾルデ王妃には頭が上がらなかった。父が亡くなったあとすぐにイザベラは陛下の愛人になりました。他の愛人に第一王子が産まれ、相当焦っていましたからね。イゾルデ王妃は三人の王女を産んでいたものの王子には恵まれなかったんです」

ともだちにシェアしよう!