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第42話
「上等な肉だ。旨い酒だ。さっさと持って来んか!儂は陛下の名代、クリュエル子爵様だぞ。こんな不味い酒が飲めるか!」
一緒に連れてきた女性たちを両脇に侍らせ喚き散らすクリュエル子爵。
(いきなり来てこれか。先が思いやられるな)
ジュリアンさんが粉々になった陶器のジャグをため息をつきながら拾い集めた。
「怪我がなくて良かった」
「すまんの」
セバスチャンさんの体を支えながらゆっくりと起こすユフ。
「なぜ男しかいないんだ。さっさと女を出せ!酌をさせろ!ぐすぐすするな!」
「閣下はご自分のことはご自分でなさりますから侍女は二人もいれば十分なんです」
「あばずれの年増女が侍女だと?ふざけるのもいい加減にしろ!」
「分からんやつだな。子爵は若い未婚の娘を二人ご所望なんだ。長旅の疲れを癒してさしあげろ」
クリュエル子爵の側に控えている従者が声を荒げた。
「出来ません」
ユフは動じなかった。
「閣下の留守を預かる身として、誰一人差し出す訳にはいきません。閣下は領民を家族同然にとても大切になされています」
クリュエル子爵の従者と側にいる女には要注意。密偵から逐一報告があり、ユフもジュリアンさんも従者と女性たちに悟られないように細心の注意を払い警戒していた。
「子爵様、アレがいませんよ」
従者が悪い笑みを浮かべながらクリュエル子爵の耳元に囁きかけた。
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