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第46話
「なんのことか分からないな」
「惚けないで下さい。結納金のことですよ。使者として父に謁見したその顔を忘れる訳がありません。そうでしょう、カ―ス・クリュエル殿」
従者がクソッと小さく舌打ちをした。
「殿下とセドリック殿下はニーナごとき女の色香などには惑わされない。新郎を眠り薬で眠らせ、殿下とセドリック殿下には媚薬でも飲ませ言い逃れ出来ないように既成事実を作ろうとする魂胆だろうが全部筒抜けだ」
ユフが従者を睨みつけた。
「その目付き……もしやあなた様は……」
数人の王室警備隊がユフの正体に気付き、ご無礼をお許しくださいと床に額を擦りつけてひたすら謝り続けた。
まさかそんなことになっているとは知らず、スフィルさんとゼオリクさんに手伝ってもらい、城に避難してきた領民のみなさんと孤児たちにパンとス―プを配っていたら、
「きゃぁぁ―!」
子どもたちの悲鳴と泣き声が突然聞こえてきた。
「どけ、邪魔だ」
ガシャーンと皿が割れる派手な音がして、クリュエル子爵がフラフラと覚束ない足取りで近付いてきた。
「大丈夫?」
押されて倒れた子どもたちに駆け寄った。
「なんだここに女がいるじゃないか。儂の相手をせい」
ニタニタと笑うクリュエル子爵。十歳のマリーの手を掴もうとした。
「やめて下さい。こんな小さな女の子に相手をしろって、頭がおかしいんじゃないですか?子爵だかなんだか知らないけど、人として最低です」
すっかり怯えて泣きじゃくるマリーを抱き締めた。
「頭がおかしいのは貴様だ。儂は国王陛下の名代だぞ!」
「だから何なんですか?そんなに威張ることですか?なぜみんなが怯えているか、その理由をあなたは分からないんですか?」
「あ?」
クリュエル子爵の目がつり上がった。でも、
「ほぉ―、貴様、偽者か」
薄笑いをして眼を細めた。
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