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第52話

アルさまとセドさまがいない夜。月明りがほのかに窓辺を照らすけれどやはり寂しい。いつも窮屈で狭いベットもやたらと広くて冷たく感じる。 聖女は国のたからもの。真っ先に保護すべき存在である。姉さんは顔を整形し絶世の美女になった。美しい聖女に目をかけてもらえるのは僥倖の極み。誘われて断るすべがない。むしろ名誉なことと喜んでその手を取るだろう。 「さっきからため息ばかりですね」 ユフの声が聞こえて来て。どきっとして顔を上げた。 「何度か声はかけたんですよ」 「すみません。気付かなくて」 「隣に座ってもいいですか?」 「どうぞ」 ユフがベットの端にゆっくりと腰を下ろした。 「魔物に邪魔をされてなかなか先に進めないと連絡がありました。死の森で子爵と鉢合わせになるのを避けるため、到着が遅くなるそうです」 「お二人は無事なんですね」 「はい」 「良かった」 ほっとして胸を撫で下ろした。 そこへエリオット殿下が足音を忍ばせてそぉ―と静かに部屋に入ってきた。 エリオット殿下と声を荒げるユフ。 「寝れないからサクに話し相手になってもらおうかなと思って」 「変な誤解を招くからサクさまの部屋には立ち入り禁止と言われませんでしたか?」 「ユフだってそうだろう」 「一緒にしないでください。私はサクさまの身の回りのお世話と警護を閣下から申し付けられているんです」 「一人は嫌だ」 「は?」予期せぬ答えに言葉を失くすユフ。

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