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第56話

朝が明ける。朝日を浴びて湖面がキラキラと輝きはじめる。町へ出掛けたつもりだったけど、サウスイーストの村のことが気になってどうしようもなくて。それを察したスフィルさんとゼオリクさんが僕をサウスイーストの村に連れていってくれた。 予想をはるかに超える被害の全容が明らかになるにつれて、怒りと悲しみがふつふつと沸いてきた。一度ならず二度も村に火をつけるなんて。まさに悪魔の所業だ。 村が元通りの姿に一日でも早く戻りますようにと祈りを捧げると、 「……雪?」 「今、夏だぞ」 「嘘だろ、本当に雪だ。雪が降っている」 「まさに奇跡だ」 「サクさま、わしらみたいな老いぼれのためにありがとうございます」 村人たちが顔を両手で覆い涙を流した。 ジュリアンさんに、血を見たら卒倒するでしょう、足手まといになると、セドリクさんと同じことを言われ、泣く泣くユフと城に残ることにしたエリオット殿下。 ジュリアンさんとスフィルさんは村長らと今後のことを話し合っていた。 「魔物ですか?」 「飼っている犬が気が狂ったように吠えていて様子を見に行ったら毛むくじゃらの見たこともない大きな獣が……あれはきっと魔物です」 「助けが来た時に湖のほうに逃げていきました」 湖のほうを指差す村長さんたち。 「サクさま、そこから離れて下さい」 ジュリアンさんが声をあげた。 それまで静かに波を打っていた湖面が大きく盛り上がり、やがて黒い大きな獣が姿を現した。怪我をしているみたいだった。首から血がぽたぽたと流れていて、小さくガルッッ~~とうめき声をあげていた。 「サクさま危ないので離れて」 「大丈夫、この子は怖がっているだけだから」 そう。警戒しているだけ。無理もないよね。首輪をつけられて。あれ、この首輪どこかで見たような……。

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