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第60話
「ミラー湖はずっと黒く厚い雲に覆われていました。サクさまが来てくださってからは晴れる日が増えました。水難事故も少なくなりました。作物が育たない不毛の土地だったのが嘘のように小麦が収穫出来るようになりました。私たちがサクさまに感謝しているのです。ドラゴンもきっと感謝していますよ」
村長さんが嬉しそうに微笑んだ。
「僕はなにもしていません」
「謙遜されなくても宜しいですよ。サクさまは私たちの幸せをいつも祈ってくださっているでしょう。だからさっき雪が降ったんですよ」
村長さんたちに頭を下げられてどうしていいか戸惑ってしまった。
「サクさま城に戻りましょうか?」
ジュリアンさんがタイミングを見計らったように声を掛けてくれた。
「はい、アルさまとセドさまをお迎えする準備をしなければなりません。村長さん、村のみなさん、一日でも早く復興出来るように尽力しますからもう少しだけ辛抱をして下さい」
「サクさま、ありがとうございます」
僕は、スフィルさんたちと城へ戻ることにした。
あともう少しで町に着くという時に魔物に取り囲まれてしまった。
「スフィル、サクさまを連れて先に行け!」
ジュリアンさんが叫んだ。
「でも義兄上」
「ザンザ―がいるから心配するな」
「サクさま、しっかり手綱を掴んでいてください。強行突破します」
スフィルさんの表情が引き締まり、馬から振り落とされないようにしっかりと背中を抱き締めてくれた。
「怖いでしょうから、目を閉じていてください。何があってもお守りします」
スフィルさんの心強い一言にガチガチに強張っていた肩の力がすっと抜けるのを感じた。
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