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第72話
「こんな物騒なもの、よく作りましたね。どれだけの呪力を込めたんです?人だけでは飽きたらず、精霊や魔物を捕まえてこれを首に嵌めて使い捨ての駒にするとは」
「知らん。ニーナとその愛人たちが勝手にやったことだ」
短く答えると腕を前で組みふんずりかえるルシアン陛下。
「ニーナって……ではこの者たちが嘘をついていると申されるのですか?」
ザンザ―さんが手をかざすと綿毛みたいに小さくて白くてふわふわしたものが無数に宙に浮いていた。「助けてくれてありがとう」と声が聞こえてきた。
湖に向かって頭を垂れ、水面に影を落とす木々。波をキラキラ輝かせる太陽の光。ミラーは真実をうつす鏡の意味があると教えてもらった。古い言い伝えがある。可能性は低いとアルさまには言われたけれど、元居た世界と繋がっているなら、戻って罪を償ってほしい。可能性はないとは限らないもの。手を後ろにして縄で縛られて湖岸に立つミーナ。髪はまっ白。埃と砂まみれで汚れた顔は生気がなく浮腫んでいるように見えた。かつて国中の男性たちを虜にした美貌は見る影もなかった。
ルシアン殿下は最後の最後まで姉の名前をニーナと間違って呼んでいた。最初から騙すつもりだったのだろう。国が滅びたのもなにもかも全部姉のせいにして。
黒の騎士団に睨まれルシアン殿下はわずかな手勢を連れてさっさと逃げた。足手まといになる邪魔でしかない姉は湖の波打ち際に捨てられた。
「メイソン村を無事で通過できればいいな。村人はみなサクを慕っているから」
「そうですね」
セドさまとアルさまが切り立った崖のある風光明媚な入り江を眺めた。
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