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第87話

「殿下、大変です!魔物が現れました!」 黒い騎士団の騎士が息を切らしながら駆け込んできた。 「ジュリアン卿の屋敷に向かったと思われます」 「なんだと」 セドさまの声色が変わった。 「セド、サクが危ない」 「アル、落ち着け。義兄上とスフィルとゼオリクが一緒だから大丈夫だ」 「大丈夫かもしれないけど何かあったら手遅れになる」 「きみまで助けに行ったらそれこそ相手の思う壺だ」 「どういうことですか?」 「我が国も一枚岩ではないということだよ」 お義父さまが静かに口にした。 「実は父の隠し子だという者が現れて、大公位の地位と領地を要求しているのだ。彼の後ろだてがなにかと悪い噂がたえない侯爵でね。跡取りがいなくてクチュリエル卿の娘を養女に迎えたんだ」 お義父さまが言葉を詰まらせた。 「つまり侯爵はその娘が正当な聖女であり、俺の后に相応しいと主張している。兄さんは一年間喪に服さないといけないからね、俺に狙いをつけたのだろう。男が聖女な訳がない。娘は東の町で流行っていた原因不明の病で苦しんでいた民を大勢救ったと。あまりにも話しがうますぎるからきっと何か裏がある」 「だから私の配下の者にひそかに探らせているところだ」 「お二人がそう申されるなら、分かりました。でもまさかクチュリエル子爵の娘が帝国の貴族の養女になっていたとは。抜け目のない男だ」 「養子縁組に関して正式な手続きをとっていたから認めざるを得なかった。クチュリエル子爵に性格が似ているからか生理的に無理なんだ。この前なんか勝手に抱き付いてきて、そのあと体中が痒くなって大変だったんだ。近寄らないでくれと頼んでいるのにベタベタしてくるし、妻でもないのに彼女面しているし」 無意識に腕を搔くセドさま。

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