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星空の出会い④

 エミーユがベッドのほうを見れば、マリウスが床に片足をついていた。自分でベッドを降りようとしたのだ。視界がふさがれているのに、マリウスはバランスを失わずに起き上がった。その様子にマリウスが随分と回復しているのがわかる。 (これならもう安心だな)  マリウスは、全裸に包帯だらけの姿だが、痛々しくはなかった。  むしろ、野生動物のように全身にしなやかな筋肉がついており、エミーユはマリウスをとても美しいと感じた。 (さすが獣人、立派な体だ)  マリウスは手で周囲を確かめながら両足を床についた。 「エ、エミーユ? どこ?」  マリウスは手を宙で掻いて、エミーユを探している。 「マリウス、おはようございます」  エミーユの発した声に、マリウスの顔が、ぱああっ、とほころんだ。 「エミーユ!」  いろいろと体をぶつけながらエミーユに寄ってきた。マリウスはエミーユに懐いてしまったようだった。  そこで、腰をもじもじとさせた。 「あ、あの、トイレ、どこ?」  桶は絶対に嫌だ、と言外ににじみ出ている。  エミーユはマリウスの腕を取った。 「こっちです」  小屋を出て外に連れて行く。  マリウスを小川に渡した板に立たせる。 「か、川?」  せせらぎの音でマリウスはどこに立っているかがわかったらしい。 「ここが我が家のトイレです。嫌なら桶になりますが」 「か、川で良い! むしろ、川でするのが好きだ! トイレは川が一番だ! 川は最高のトイレだ!」    マリウスは訳の分からないことを叫んで、用を足し始めた。  そこへ、勢いよく近づいてくる蹄の音が聞こえてきた。馬がマリウスに気づいたのだ。馬は、喜びをこらえきれずにぴょんぴょんとそこらじゅうを跳ねまわっては鼻をブルルッと鳴らしている。  マリウスも馬に気づいたようで、声を上げた。 「ブラックベリー!」  マリウスは用を足し終え、板を降りると、馬が近づいてきた。マリウスに甘えるように首を寄せる。  マリウスは馬の首に両腕を絡ませた。 「ブラックベリー……!」  馬の首を撫でてはキスをし、馬もマリウスに首をこすりつけている。 「良かった、無事だったんだね……!」 「ブルルッ」  マリウスと馬はしばらくそうやって互いの無事を喜び合っていた。まるで友だちのように信頼し合っているのがわかった。  エミーユは野良作業をしながら、じゃれ合う二人を眺めた。  小屋に戻れば、マリウスはぽつりとつぶやいた。 「良い匂いだ……」  小屋には干し肉のスープの匂いが漂っている。根菜の煮物もある。 「すぐに食べ物を用意しますね」 「あ、え、いや、そうじゃない、そうじゃなくて、たぶん、あなたの匂い、いや、何でもない」  口ごもるマリウスの腹が盛大にぐうと鳴った。 「あっ」  マリウスはまたもや顔を真っ赤にさせてうつむいた。 (大きな図体のくせに、すぐに真っ赤になる。兵士なんかまるで似合わない。こんなので戦場でやっていけたんだろうか。いや、やっていけなかったから大怪我を負ったんだろうな)  エミーユは、マリウスの人となりがすでにわかったような気になった。この子は悪さをするような子じゃない、と。馬だってあんなになついている。しかし、そこで、エミーユは気を引き締める。 (いや、こいつは兵士だ。しかも、グレン人兵士だ。いくら大人しそうでも油断するな)

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