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発情①
(わた、し、発情を起こしている……?)
「うっ、はっ、は、なれ、なきゃ………」
エミーユはマリウスと離れなければならないとわかっていたが、見えない何かに絡めとられたように動けなかった。エミーユの衝動が高まってくる。
渇望がどうしようもないほどに高まってくる。
「マリ、マリウス」
「エミーユ……!」
マリウスがエミーユの背中を強く抱いてきた。
「あっ………」
マリウスの息が首筋にかかる。それだけで体がもだえてしまう。
(これが発情……、今までのものと全く違う……)
一人で迎える発情とは全く異なっている。気が狂いそうなほど目の前の獣人を求めている。
エミーユを抱きしめているマリウスが肩で息をしている。乱れた呼吸音を立て始めている。
(マリウスも反応を始めている……?)
「エ、エミ……、おれ、あなたが、す、き、すきなんだ……、おれ、たまらなくなってる」
(私の発情に誘われているんだ)
マリウスはエミーユの胸を押した。
苦しそうな声を上げて、マリウスはエミーユから一歩遠ざかった。
「あ、ごめ、エミ……。おれ、これ以上そばにいると、あなたにひどいことをしてしまう」
マリウスは苦しそうな声を出した。エミーユに背を向け、足を引きずるように、エミーユから離れる。
(行くな……!)
エミーユは背を向けたマリウスにふらふらと吸い寄せられるようにあとを追いかけた。
「マリウス………!」
エミーユは頭からすべてのことが抜け去った。マリウスを町に置いていくことなどどうでもよくなっていた。ただ目の前の獣人に触れたかった。
(この獣人が欲しい……)
そのことだけに頭が占められている。
手探りで戸口に向かおうとするマリウスに、エミーユはよろよろと追いついた。
(私は、何をやってるんだ………? こんなことは駄目なのに……、マリウスは私から離れようとしているのに……)
理性でそう考えるも、もうマリウスを求めてしようがなくなっている。自分の体を少しもコントロールできない。ただ、マリウスを求めている。
よろめきながらマリウスの背中にたどり着くと、その背に手を当てた。いつものようにマリウスを撫でるが、その撫で方はいつもとは違っていた。欲望がこもっていた。
「マリ、ウス……、行くな……。行かないで……」
マリウスはじっと戸口に立っていたが、背中を向けたまま、言った。
「エミ、エミーユ、いい、の? おれ、エミーユにひどいことをしてしまいそう、だ。だけど、いいの?」
「うん、いい……」
エミーユはマリウスの背にもたれかかった。背中からマリウスを抱きしめる。
「あ……はあっ……。あなたが欲しい……」
エミーユは完全に発情していた。
マリウスは、エミーユに振り返った。
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