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戦争終結と平和の到来②

 生まれ故郷の港町は活気に満ちていた。町に戻った人々はみな一様に明るい顔で、復興への希望にあふれていた。  久しぶりに浴びる海風に、記憶が一気によみがえってきた。  窓からのカモメの声、遠くの汽笛、お母さんの作るお菓子の甘い匂い、お父さんが弦をはじく音。  しかし、自宅に向かうにつれて足がすくむようになった。丘を覆う黒い集団、石畳を鳴らす軍靴の音、血の匂い。  リベルをギュッと抱きしめた。  リベルも抱きしめ返してくる。 「きゃははっ、きゃはあっ」  リベルの笑い声がエミーユを励ます。  生家に向かう途中で、明るい声に呼び止められた。 「エミーユ?!」  その声にエミーユが足を止めると、面影を残した女性が出てきた。  隣人の靴屋の孫娘で、エミーユの幼なじみだ。  エミーユは声を上げた。 「アンナ! 無事だったんだね!」 「うん、エミーユも!」  靴屋は、商売を再開していた。  幼馴染の祖父である店主も出てきた。 「お前さん、無事だったのかい。きみには何もしてやることができなかった」  店主はありったけの金をエミーユに渡してくれたにもかかわらず、そう言ってきた。 「私が生きているのはおじいさんのおかげです……! あの時は本当にお世話になりました……!」  エミーユは涙ぐんで、当時、ポケットいっぱいに紙幣を詰めてくれたことに、改めてお礼を言った。  あのときにおじいさんに「北に迎え」と言われなければ、そして、路銀をくれなければ、エミーユは路頭に迷って、おそらくとてもひどいことになっていた。  幼なじみも涙ぐみながら言った。 「お兄ちゃんね、帰ってるの。今は病院で療養してるけど、無事、帰ってきてくれたの。エミーユも、お母さんに早く顔を見せてあげて」  エミーユは目を見開いた。 「じゃ、じゃあ?」 「うん、早く。その子の顔も見せてあげて」  幼なじみはエミーユの胸に抱くリベルを見て言った。  エミーユは早足で家へと向かった。  家はところどころ壊れたままだが、中に人の気配があった。  戸口を叩けば、中から女性が顔を出した。 「………お母さん……?」  まぎれもないエミーユの母親だった。エミーユを戸棚に隠して、忘れられない微笑みを残した母親。  声も上げずに連れ去られていった。  そして、戻ってきてくれた。 「エ、エミーユ?」  母親は戸口に手をついたままずるずると床に崩れていった。 「お母さん……!」  母親は長いこと呆けたようにエミーユを眺めていたが、「エミーユ!」と声をあげた。そして、エミーユにしがみついてきた。 「エミーユ! エミーユ! よ、よかった、無事だったのね!」  生きて再び会えるなんて。  二人はひとしきり再会を喜び合った。母親は涙をエプロンの裾で拭きながら、改めてエミーユを眺めた。エミーユの腕に抱いたリベルに目を丸くしている。 「まあ! まあ! なんてこと! その子は?」 「リベルと言います。私の子です」 「まあ……!」  母親がリベルに両腕を差し出すと、リベルは手を伸ばして抱きついた。 「きっきゃあ、きゃはぁっ」 「まあ、可愛らしい」

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