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こうして伝説が生まれる①

(エミーユは近くにいる)  いてもたってもいられなくなったマリウスは、客殿を出た。血相を変えて飛び出していくマリウスをリージュ公が冷やかした。 「お前も夜遊びする気になったか、結構結構」  マリウスにはそんな冷やかしなどどうでもよかった。  庭には、晩餐会の後のひとときを楽しんでいるらしき紳士淑女が残っていた。  マリウスを見るとぞろぞろと集まってきた。 「まあ! 皇帝陛下!」  集まってくる人たちに、マリウスはくるりと背中を向けた。 「まあ! リージュさま!」  マリウスの後からついてきたリージュ公に、あとをすっかり任せることに決めて、マリウスは影を選んで移動する。  ホールに向かうと、使用人が片づけをしていた。  そこでも、使用人に気づかれて、注目を集める。 「陛下だ」 「アウグストさまだ」  マリウスが、片手を上げて応じてみせると、「おお!」とどよめきが起きる。  仕方なく、ねぎらいの声をかけた。 『あなたがたのおかげで、今日は、素敵な晩餐会を過ごせたよ』  使用人らがどっと沸く。 「なんて言っただ?」 「わかんねえけど、多分、ねぎらってくれただ」 「陛下は俺たちをわざわざねぎらいにホールまで来ただか?!」 「もう、おら、死んでもええだ!」  マリウスはエミーユの匂いが感じられないのを確かめて、廊下に出た。人影を避けて移動する。  そのとき、ふわっと匂ってくるものがあった。 (エ、エミーユ……?!)  マリウスは匂いがする方向に足を向けた。  それは西棟の方から漂ってくる。  西棟に入ると匂いは強まった。 (これはエミーユだ、間違いない……! ここにいるんだ!)  マリウスは確信し、歓喜にあえいだ。  折しも、向こうから人影が近づいてきた。  皇帝だとわかったのか、その使用人は廊下の端に寄ると頭を下げた。  マリウスが近づけば、エミーユの匂いは強まった。 (エ、エミ……!)  マリウスがよろよろと使用人のもとに近づくと、立ち止まったマリウスに使用人は恐る恐る顔を上げた。 (ああ、間違いない、彼からエミーユの匂いがする) 「べ、ベビービュ……!」  マリウスは歓喜のあまりに声がうまく出せなかった。  呆けた顔でマリウスを見上げてくる使用人を、マリウスはガシッと胸に抱きとめた。 (………?! 背の高さも、抱き心地も違う?! エミーユはもっと華奢だった……。しかし、この匂いはエミーユに違いない! ああ、エミーユは成長して、背が伸びて、体もがっしりしたんだ) 「陛下……。あの……?」  マリウスに抱きしめられているのはロイだった。肩にエミーユの肩掛けをかけている。マリウスの嗅いでいるのは肩掛けの匂いだった。しかし、歓喜にむせぶマリウスは、そのことに気づかなかった。 『あいたかった……』  そこからのマリウスは素早かった。ロイの体を肩に担ぎ上げると、すごい勢いで、客殿へと戻った。 「へ、へいかっ……?!」 (声も違うような気もするけど、エミーユはあのあと、声変わりしたんだ。俺だってあれから成長した。大きくなったし声も低くなった。エミーユだって成長して変わってるはずだ)

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