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果たされた再会①

 窓辺に立ち、蒸留酒をを煽るマリウスにノックの音が聞こえてきた。マリウスは慌てて涙を腕で拭った。  護衛兵士がマリウスに伝えてくる。 「陛下、客が来てるけど、通していいか?」  マリウスは手を振った。 「追い返してくれ」  マリウスの部屋にはしょっちゅう貴婦人やら令嬢やらが押し掛ける。なかには約束を取り付けたと嘘をついて、やって来るものもいる。どんな訪問先でもマリウスには招かれざる客であふれている。  護衛兵士には追い返すように言ってあるのだが、兵士は兵士で気を利かせたつもりで、身元さえ確かであればそんな客を部屋に送り込もうとしてくる。   「わかったよ。この堅物め」  そのあとの護衛兵士の声にマリウスは飛び上がった。 「ってことだ。レルシュ楽長。今日は帰ってくれよ」 (楽長……?! 客とはエミーユなのか?)  慌てて、扉に向かうと、廊下に去っていく栗色の髪が見えた。 (エミーユ……!)  護衛兵士の脇を通り抜けて、その背中に声をかける。 「ま、待って! 待ってください、楽長!」  ハッと足を竦めたエミーユは、ゆっくりと振り向いた。 (エミーユ………! ああ、この人はエミーユだ……!)  目の前にしてそれを確信する。   「エミ、レルシュ楽長……。俺に、会いに来てくれたのですか……?」 (エミーユ、もしかして俺に名乗り出てくれるつもりなのか。ああ、それなら俺はもうあなたを離しはしない)  しかし、エミーユの顔には心なしか警戒が浮かんでいるように見えた。 「リージュ公に、陛下の部屋に向かえと言われました」 「リージュ公に?」 (あいつが俺に妙な気を回したのか? ああ、それにしても、エミーユだ。これはエミーユだ。懐かしいその声、その匂い、エミーユだ、エミーユが目の前にいる……!)  エミーユはグレン語で話している。  エミーユは地味な外見だったが、ハシバミ色の目の奥には深い慈愛を感じさせた。肩よりも長い栗色の髪はうなじで一つにまとめており、毛先がくるくると巻いて頭を揺らすたびに躍動的に揺れる。 (あなたは思っていた通りの外見をしていた……。愛おしい、何もかもが愛おしい……。あなたをずっと見ていたい。あなたの動くさまを俺はずっと見ていたい)  しかしながら、マリウスに向いたエミーユの顔には怯えが浮かんでいた。 「用がなければ帰ります」  迫りくる想いを抱えてエミーユを見つめていたマリウスに、エミーユは素っ気なかった。エミーユのよそよそしさにマリウスは傷つく。 (どうしてだ、エミーユ。どうしてそんなに冷たい……?)  去ろうとしたエミーユに慌てて声をかける。 「待って、用事はあります」  引き留めるマリウスに、エミーユはどういうわけか、とても警戒した目を向けている。 (エミーユ、どうしてそんなに俺を警戒する。俺はあなたの嫌がることをするつもりはないのに)  想いのこもる目で見つめるマリウスに、エミーユもその目に切なさを浮かべ始めたように見えたが、マリウスがエミーユに手を伸ばしかけると、エミーユは後ずさった。 (エミーユ……?! あなたは俺を拒絶するのか……? どうして……?)

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